9話/鉄籠の鬼

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15.  東雲が操る宮比によって五暁院で火事が起き、百之助達がその後始末に追われていた頃ーー。  夜光は都の北東の山へ野外訓練に出ていた。  虎継が従える人工の半鬼である甲武鬼兵達と一緒にである。  夜光は黒鬼に変化し、同じく変化した灰色の鬼達と組み合ったり投げ飛ばしたりしている。  山に隠れた彼らを時間内に見つけて倒す訓練だ。  3人の内2人を発見し、関節を固めたり、首や急所に爪や角をかざし一本取る。  最後、残りの1人は不意打ちに砂をかけてきた。  「ここだ黒いウスノロ野郎!」  そのまま仰向けの夜光に馬乗りになって顔を殴る。  「ジュウニの体に抱きついた罰だ!喰らえ!」  「……!!」  夜光は素早く相手の両腕を封じ、角を炉のように赤く発光させ、頭突きしようとする。  そこで男が叫ぶ。  「そこまで!」  夜光は技の発動を停止し、相手を解放した。  変化も解く。前よりやつれた顔になっていた。  夜光に歩み寄る、軽装鎧の人間の男。  馬の尻尾のような髪型で、寝不足そうな疲れた顔と垂れ目の優男だった。何故か常に竹の虫籠を持ち歩いてる。  「はー……。夜光君さあ、その技は許可があるまで使うなと言っただろ?話聞くの苦手なのは分かってるけどさ、ちゃんと命令聞くようにしてくんないと困るんだよね。」  「申し訳……ありません。菅井(すがい)……先生。」  男に責められ、目を逸らしながら辿々しい敬語で謝る夜光。言葉遣いが悪いと酷く叱られるので仕方無くだ。  「これ訓練だからいいけどさ、本番の虎継様の前でポカした日にゃ、まず育成係の俺の首が飛んじゃうわけよ。分かるー?」  菅井は虎継から甲武鬼兵の管理全般を任されている。百之助が権限を失った今、夜光の指導も彼が行う事になった。  「キュウの砂かけはどうなん……ですか?」  「はー……。確かに許可してないけど、こっちは勝手に鬼術使ってバンバン体力消費されちゃう方が困る訳よ。  それに実戦は何でもありなんだから相手側は何でもしてくる位がいいわけ。お分かり?」  イライラを紛らわすように籠の中で戦っているカブトムシとクワガタを見ながら、「いいぞ殺れ殺れ‼」と、小声でブツブツ言う菅井。  夜光は不満そうな顔をする。  「それを言うなら、本当の戦いで鬼術の許可なんて待ってる方が命取りに……。」  「あーもーっ!   まずこれは訓練だからさ、指示通りちゃんとやる事だけに集中してくんない?  もう一回やるよ?!」  訓練が終わり、都に向かう夜光と甲武鬼兵の3人。  人間態の3人は全員白髪で痩せ型。瞳は薄い黄金で、額に豆粒のような短い角がちょこんと生えていた。  一人目の名はシィ。顔に皮膚が剥がされた傷がある、少年のような短髪の少女だ。夜光が都に戻った時に戦った半鬼である。  二人目はキュウ。目つきが悪く、髪がボサボサの少年だ。先程、夜光に馬乗りになった男の半鬼である。  三人目はジュウニ。長い癖っ毛に桔梗の髪飾りを留めた、目がくりくりしてて可愛らしい少女だ。    キュウは夜光に近寄って囃し立てる。  「菅井に怒られてやんの!ノロマの役立たず!」  夜光は目を合わせずボソボソ言う。  「迷惑かけたのは悪かった……。そんなに言うな。」  しつこく付き纏うキュウ。  「ああん?なんて言ってるか聞こえねえよ!  アホの舌足らず!悔しければ言い返してみろよ!」  夜光はいきなりキュウの胸ぐらを掴んだ。人が変わったように怒鳴る。  「うるせえっ!!  俺に構うなっ!!」  驚いているキュウの前にシィが出る。  「やめろ馬鹿キュウ。話を面倒な方に持ってくな。」  「シィは黙ってろ!ブスのクセに!」  それを見たジュウニが気の抜ける声で、先に行った菅井を呼ぼうとする。  「あーん、菅井先生〜。  キュウと夜光が喧嘩してるの〜!  それにキュウがね、シィにブスって悪口言ったんだよ〜!」  それを舌打ちしたシィが小突いて止めさせる。  「ジュウニも黙ってろ……!  空気の読めない、馬鹿のチクリ屋め……。」  シィは怠そうに首を後ろに倒して夜光に顔を近付ける。  「力があるならもっと暴れて壊してやりたいって分かるけどさぁ、……虎継は絶対なんだよ。夜光。  軍用に向かないって、殺処分されたくなきゃ、表だけでもいい子にしておきな。」  「……分かって、いる。  悪かった。」  夜光は唇を噛み、言葉にならない感情を抑える。    3人から離れて歩く。  (百之助達には迷惑を掛けたくないし、また会う時まで我慢しなきゃって思う。でも正直……その前に自分が自分じゃ無くなりそうだ。……。)  夜光はシィに抱きついて甘えるジュウニや、ジュウニに照れ顔をしているキュウを見て疎外感を感じた。  (俺が悪口を言われた時、いつもカムナが言い返して庇ってくれた……。  こんなの初めてだ。皆んなが居ないと、胸の奥が寒い……。  ……寂しい、って言うのか。  誰かが助けてくれたり側にいる事を、それが本当は嬉しい事、感謝しなきゃいけない事だって、どうして忘れてしまうんだろう。  そう言うの、本当に駄目だな。俺は……。)
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