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目が覚めると、自分の部屋のベッドで寝ていた。
時間は、5時45分。
どうやって、帰ってきたのか。
ぼんやりとした記憶の中、歩いて駅へ行き電車に乗ったことを思い出す。そのあとは……家に帰って、お風呂に入って……寝た。
それらはとても、ぼんやりしていて。どうやって松瀬くんと別れたのかも思い出せないし、漠然として、夢のような気もするけど――松瀬くんに言われたことは、言ったことは、鮮明に覚えている。
忘れさせて欲しいと、言ったのに。
松瀬くんのことを想ってしまう、胸が痛い、苦しい、辛い、悲しい。
私を好きじゃないって言ったのに、距離を置くって言ったのに。
どうして、忘れさせてくれないの?
私のことなんて、気持ちなんて、どうでもいい?
それとも、忘れて欲しくない?
だったら、どうして離れるの?
全然、分からない。
『好きだ、芽愛里』
あれは、あのぬくもりは。
やっぱり、夢だった。
そう思った途端、すべてが一気に色褪せ――ぎゅっと、目を閉じる。
だいたい、どうして?
『僕はもう、好きではない』
考えても、分からない。
何をしたのか、してしまったのか。
私とはもういられないと思うほどの、ことって?
夏帆と、話したい。
夏帆になら全部を、話せる。
まとまらない気持ちを、聞いてくれる。
松瀬くんの悪口を言いながら、一緒に考えてくれる。
美味しいご飯を一緒に作って、たくさん作って。
笑って泣く私を、抱きしめてくれる。
でも。
夏帆にも、嫌われた。
涙が落ちそうになるのを堪え、重い胃を抱えていると、目覚ましがなった。
6時10分。
行きたくない、休みたい。
でも、休んで迷惑をかけたばかりだし、水口さんは子供の病気で休んでいる。
失恋で……休めない。
大きく息をついて起き上がると、のろのろ、階段を下りた。
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