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二話 ラフ
「んーまぁ俺はこういう書き方しかできへんし、逆に蒼海みたいな彩りのある書き方もしてみたいって何度も思ってるよ」
「私の文面に彩り?またまた...冗談にしては甚だしいぞ少年」
「うわ、珍しく褒めてやったと思ったら冗談だなんて悲しいなぁ」
「ほんまに褒めたん?」
「当たり前やろ」
彼女が冗談だと思うのもまぁ仕方がない。
常日頃、SNSやメールに留まらず、日常会話でも冗談を重ねている俺だ。
たまに真摯に言葉を投げても冗談だと捉えられてしまうことがあるのだ。
「その顔は、『冗談』の二文字が滲み出てるわ」
「心外やな、ネットで『作家界の裁判長』って謳われてるくらいに堅苦しい文面像を持つ俺が、地平線のその先まで広がるお花畑くらい彩り鮮やかな文面像を持つ笹江蒼海さんに」
「はいはい、冗談やな、そう受け取っとく」
「なぁー癖なんやってこれは」
「癖にしてもひん曲がりすぎや」
「やろ」
「まぁ、蒼海みたいな文章書きたいって思ってるのはほんまにほんまやで」
ほんまにほんま、俺はこう彼女に面と向かって何回でも言えるほどには、彼女の書く文面には一ミリの嘘偽りのない尊敬の意を表している。
彩り鮮やかな文面、それは読者の心を深く掴むのには腕ほど大事な鍵の一つでもあるのだ。
そんな彼女の文面はもちろんなのだが、作風に関しては、読者が想像しやすい世界観を帯びているに留まらず、もしかすれば一ページ一行目から読者の心を鷲掴みにしてしまうほどの鮮やかさで、彼女の原稿に目を通す度には俺に足りない何かを気づかせてくれる。
出逢って三年が経つ彼女は、今になっても色んな意味で同い年には見えないな。
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