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大空の支配者
「イエローモンキーどもを海の藻屑にしてくるぜ」
アランは整備兵のジョーンズに親指を立てた。空母レキシントンの艦載機搭乗員として着任して以来、ジョーンズはアランの機体の整備を担当していた。初陣を前に高まる興奮を隠すように、アランは軽口を叩いた。
アランはこの時を待ちわびていた。ひと際正義感の強いアランは、何度もテレビで流される日本軍の真珠湾奇襲映像に怒りを覚えていた。アランだけではない。アメリカ全国民が日本人は卑怯だと信じて止まず、報復の機会を伺っていた。そして今まさに、レーダーが来襲する日本戦闘機群を捉え、迎撃に向かうところだ。復讐の絶好の機会だった。
「しかし、噂では、ゼロは最強の戦闘機と言われてるらしいですぜ。生き残った仲間は皆一様にバケモノだと口にしてるとか。十分気をつけてくださいね」
日本は開戦以来、破竹の進軍を見せ、特に零戦の活躍は目覚ましいという。たしかに聞いた話では中国やフィリピンでの戦果には目を見張るものがあるらしい。イギリスも自慢の戦艦を沈められて引け腰だという。しかしアランはパイロットの腕には自信があった。少しの性能の差など、腕でカバーして見せるつもりだった。
「なあに、やられた相手はやたらと大きく見えるもんだよ。まあ、期待しててくれ」
発艦して十分もすると、敵影を捉えた。足の鈍い爆撃機を囲むように零戦が飛んでいる。アランは卑怯なことが嫌いなため、無防備な爆撃機は後回しにし、先に正々堂々と零戦を撃ち落とすことにした。
戦闘機同士の空中戦では、後ろを取った方が圧倒的に有利なため、アランも敵も互いに旋回を始めた。しかしアランはすぐさま後ろを取られ、機銃掃射を受けた。ヒヤヒヤしたものの、何とか躱し、旋回を続けるうちについに後ろを取った。
「恨むなよ、モンキー」
そして機銃を撃とうとしたが、アランは背筋に悪寒が走った。零戦が急に視界から消えたかと思うと、後ろから掃射を受けた。アランは肩を撃たれ、エンジンも火を吹いて制御不能となり、海面へ降下を始めた。アランは激痛に耐えながら風防を開け、コックピットから脱出し、パラシュートを開いた。
アランはゆっくり落ちていく中で、友軍の戦闘を茫然と見ていた。味方も後ろを取られ、次々と撃ち落されていった。くるくると小回りをきかせて旋回する零戦を見て、アランは思わず口にした。
「バ、バケモノだ……」
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