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 走れば片道十五分の道のりも、僕の体力では往復になると四十分近くかかってしまった。公園の入り口の辺りでは不安そうに秋一が待っていて、僕は背負ったリュックサックを指しながら笑った。 「カメラ、あったよ!」 「一度帰って、母さんに怪しまれなかったか?」 「大丈夫、今日お母さんは佐藤さんとお茶する約束してたから、さっき帰ったらもう出かけた後だったよ」  佐藤さんというのは、前の家に住んでいた時のご近所さんだ。母とは歳が一つしか違っていなくて、母は昔から彼女と仲が良かった。  僕はリュックサックからカメラを取り出した。僕が愛用していたものは二年前にクリスマスプレゼントとして買ってもらったデジタルカメラであり、災害時用のリュックサックに入れたままにするには電池の関係で不向きなので、家で余っていたこのレンズ付きフィルムを譲ってもらったのだ。残り枚数は十枚と表示されている。 「父さんが俺の誕生日に撮った残りか」  秋一がカメラを覗き込んで言った。  一年前の秋一の誕生日に、父が開封されないまま抽斗で眠っていたこのカメラを引っ張り出してきた。そして「たまにはこういう写真もいい味が出るだろう」とか言いながら、迷惑そうな表情を浮かべる秋一をこれでもかと激写し、その時に僕も一枚撮らせてもらった。  懐かしい記憶を思い出し、僕はカメラを構えた。ファインダーの向こうでは、秋一がなんとも言えないぎこちない笑みを浮かべている。 パシャ、と小気味いい音が鳴った。 「しゅうちゃん、相変わらず笑顔つくるの苦手だよね」 「母さんに似たんだよ」  秋一の言う通り、母はカメラを向けられると、ぴくぴくと唇の端を痙攣させるように吊り上げるので、出来上がった写真を見るといつも変な顔になってしまっていた。要するに作り笑いが苦手なのだ。だから母はカメラを向けられるとその場からさっと逃げる性質がある。 「ほらしゅうちゃん、今度は滑り台で撮ろう」 「必要ないだろ。もう現像しようぜ」 「そんなのフィルムが勿体ないよ」  嫌がる秋一を押して、僕は公園内の様々な場所で秋一の写真を撮った。こんな所で何をしているのだろう、と再び不思議そうな視線が周囲から突き刺さったが、そんなものはどうでも良かった。  残っていた十枚分の写真を撮り終え、公園のすぐ近くにあるカメラ屋へと持って行った。人の好い店主のおじさんに出迎えられ、早速使い切ったばかりのフィルムを手渡す。  秋一が思い出したように「おいしゅん、お金持ってるのか」と慌て始めるが、僕はフィルムを取りに戻った際にきちんと財布もリュックサックに入れていた。なけなしの千円札を出してお釣りを受け取ると、三十分後に受け取りに来るようおじさんに言い渡された。  店内の壁に掛けられた時計を見上げると、既に正午を過ぎていた。
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