Last

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 一時間ほど経ち、ようやく落ち着きを取り戻した母が写真の束を再び捲り始めた。二十七枚撮りのレンズ付きフィルムだったので、母の手元にある十七枚の写真はすべて一年前の誕生日を写したものだ。  僕は母から奪い取った十枚の写真に目を落とす。さっき公園で撮影したそれらには誰の姿も写ってはいない。ひょっとしたらと思ったが、 やはり今の秋一は写真になると僕の目にも映らないようだ。 「その写真も一人で撮ったんでしょう? 佐藤さん、あなたに友達がいないんじゃいかって心配してたわよ」 「えー、心配しなくていいよ。学校では普通に友達と遊んでるもん」  今の母に秋一と会っていることを話したらきっと、僕がおかしくなってしまったのではないかと余計に心配させてしまうだろうから、しばらくは秘密にするつもりだ。  リンゴの隣の写真の中では、満面の笑みを浮かべる父に肩を抱かれ、眉を下げた秋一が照れたように微笑んでいる。
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