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彼女はハッとして俺を押し退ける。
「……ここを御暇するので」
「何故」
「カルメン様と代わる為です」
あの馬鹿親辺りが無神経なことを言ったのだろう。
「父上に言われたか? 間に受けるなお前の居場所はここだ」
嗤う彼女の瞳が昏く濁っていた。
「エロンソ様はお優しいですね」
瞬間的に頭に血が昇る。
「優しくなどないお前しか愛していないんだ!」
両肩を掴まれたまま口を開けている妻に俺は諭した。
「俺は立場や体面に頓着しない。だが妻はお前が良い、代わりはいない。お前は?」
彼女は瞳を濡らし、俺の胸に顔を埋めてしゃくりあげる。
「私も……愛しています。初めて会った時から」
彼女の嗚咽が止まるのを待ち、俺は小さな顔を持ち上げ唇を吸った。
「ようやく営めるな、愛を」
紅く燃えた燭台の灯を、俺はそっと吹き消した。
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