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1章
「止めろ!」
純白のドレスを着せられた女の背後に無遠慮な衛兵の手が届く寸前、俺は声を張り上げた。
「……少し落ち着け!」
獣のような眼をした彼らは不満気に手を引っ込める。
ここは、父の領内で最も格式高い教会だ。俺は花嫁の白いベールを外し、「お美しい」と言うタイミングを測っていた。
「……はい」
花嫁の格好をした女のたっぷりとした睫毛が伏せられる。
「カルメン王女は、どうしたんだ?」
薄鼠色の瞳が俺を見た。
「……カリンナ王が『小国の田舎領には勿体ない』と。斬りますか? 私を」
身体中の血を抜かれたように生気のない顔色だが、腹を括って来たのは称賛すべきか。
「お前が死んだところでこれといった益はない。しかし、我が国もナメられたものだ……」
立ち会いの神父がオロオロしている。参列者一同もざわついていた。
……面倒だ。
「……!」
誓いの口付けを彼女の唇に落とす。周囲どころか彼女もぽかんとしていた。
「お前の名前は?」
「コンスタンサです」
「コンスタンサ、俺はお前を生涯伴侶とすることを誓う。お前は?」
彼女が重たげに首を縦にした。
「……誓います。エロンソ様」
神父に、父に、参列者に、声高に宣言する。
「聞いていたか? 今日から彼女は俺の妻だ。しかと周知しておけ」
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