20

1/1
46人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

20

「ええと西島啓太さん、あなたは事件の日ですね、繰り返しますが、午後6時過ぎに会社の仕事を終えられて、その後事件のあった工房に行かれたわけですね。だいたい7時ちょっと前頃との事でしたが」 越前屋は前に書いたのであろう調書を読みながら、僕に改めてそう聞いた。 「そうですね」 「で、工房には1時間ちょっと滞在されて、8時前くらいに工房から帰られたんですよね」 「はい」 「確かにあなたがその時間に工房から出てきたという目撃証言がありますから間違いないでしょう。で、帰り道にはどなたにもお会いにならなかったと。お帰りは徒歩で帰られたと」 「ええ。その通りです」 僕は全て正直に越前屋にそう返答した。 「歩いて帰られたのは、ウォーキングを兼ねてとのことですよね」 「そうですね。まぁ歩いて自宅まで30分くらいはかかったんですが、ちょうどウォーキングにはいいかなと思って」 「なるほど。私も身体が鈍らないように散歩、いやウォーキングですか、たまにするんですけどね、ああいうのは大事ですよね」 越前屋は親近感を込めた微笑を浮かべて、そう言った。 「ええ、どうしても普段運動不足になりがちなんで」 「わかります、わかります。で、そのあなたがおかえりになった後に、例のプロの泥棒があの工房に侵入して、ちょうど9時頃にあの工房から出てくるところを2人の男性に目撃されています。その後三枝斉加年氏のバラバラ死体が発見され、金庫からはお金がなくなっていたと。死亡推定時刻は9時前後。その時間にあの工房を訪れていたのはプロの泥棒だけということです」 「はあ。そう言えば盗まれたお金は戻ってきたんですよね?それはよかったですね」 「はい。無事戻ってきました。よかったです」 「では、もうプロ泥棒の犯行ということが確定したんですよね。新聞やネットニュースにはまだ記事が出てないですけど」  「まあ、そのうち泥棒として数々の犯行を重ねて逮捕されたという記事が出るでしょうね」 「ああ、そうなんですか」 「ええ。奴の貸金庫からは過去に盗み出した宝石やら貴金属などの盗品、または札束などが大量に発見されましたからね」 「そうですか」 「ただ殺人の犯人ということでもう記事に出る事はないでしょう」  「え?そうなんですか?」  「ええ」 「それはどういう?その泥棒が犯人なんですよね?」 「いいえ、泥棒は犯人ではありません。犯人はあなたですよ」 越前屋は爽やかな微笑みを浮かべながらそう言った。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!