8人が本棚に入れています
本棚に追加
始点
ゼロ地点に戻されることで、拡張された未来の記憶をなくしてしまう寸前、僕は自分の呟いた問いの答えを見つけた。
繰り返すことによって負荷がかかるなら、すでに悲鳴を上げている魂は、あとどれくらい保つだろう。
さらに何十回、何百回と繰り返せば、魂はぼろぼろになってしまうに違いなかった。
僕はベッドから起き上がれず、口も利けないほど疲弊してしまうだろう。
魂が壊れて死ぬか、死んだも同然となれば、拡張地獄から抜けられるのだ。
未来において悪意と憎しみをばら撒く脅威がなくなれば、拡張地獄の目的は達せられるのだから。
暗闇のトンネルを抜け、僕は帰ってきた。
全身をびくっと仰け反らせて、ベッドの上で目が覚める。
「どうしたの、佳也。寝過ごしちゃった?」
美梨の声は眠そうだ。
先ほど情熱的に愛を交わしたばかりだから、疲れているのだろう。
僕は自分の胸をさすりながら、「長い夢を見た気がする」と答えた。
「だいじょうぶ、まだ夜明け前だよ。美梨、ゆっくりおやすみ」
妻の寝顔を見ているうちに、まぶたが下がってきた。
思いのほか、僕も疲れているようだ。
明るい未来を夢みて、僕は目を閉じた。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!