警報

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知らず知らずのうちに、僕の口から呟きがもれていた。 「何に気をつけろと言うんだ。バケモノが何かも分からないじゃないか」 客観的に見て、わけの分からないことを言っている、という自覚はあった。 僕の目が一時的にばかになって、実際には存在しない文字を見たのかもしれない。 脳や精神の疾患による妄想、幻視の可能性もあった。 突拍子もない思いつきとか、深層心理に抱いていた疑念とかが見えてしまったのかもしれない。 一方で超自然的な誰か、または何かが僕に警告してきた可能性を否定することも出来なかった。 空中の文字はあまりにもあかあかと表示されていた。 見間違いや幻覚とは思えないのだ。 話しかけてくる妻や、迷惑そうに僕を避けて通る買い物客を無視して5分ほど待ったけれど、メッセージは繰り返されなかった。 僕は考えに沈んだ。 誰かが届けてくれようとしたメッセージは、未達に終わった。 一番大事な部分、「バケモノは誰か」または「何か」が分からないままだ。 最初から、恐れていたことがあった。 読み損ねた内容が、『オマエ ノ コトダ』や『オマエ ノ ナカニ』ならば、ちゃんと意味が通ってしまうのだ。 とても分かり易いし、僕の真正面に現れた理由もしっくりとくる。 間違いであって欲しかった。 僕がバケモノだなんて恐ろしいことだ。 美莉が袖を引く。 振り向くと、妻はなにも言わず僕の顔を覗き込んできた。 心配している風だった。 「なんで邪魔したんだよ。美莉もメッセージを見ただろ。大事なところが読めなかったじゃないか」 細められていた妻の目が、くわっと見開かれた。 「何を言ってるのか、分からない。佳也、さっきから……変。どうかしたの」 適当な返事をしようと口を開きかけたとき、僕の胸の仄暗(ほのぐら)いあたりに、ある疑念が湧いた。
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