花が咲くオオカミが咲かせた花だ

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 夜が来て朝が来て、日々が動いて武人と睦月の想いもさらに深まっていって。 「ねー、武人」 「あ?」  完成まぢかの狼さんとお花畑の絵に向かいつつ、睦月が武人に封筒を寄越した。  何も書かれていない、なんの変哲もない封筒だった。  開けるよう促す仕草に応じて、中身を出す。 「あちゃー」 「ね?」  それは睦月の顔写真だった。  ただし、顔に赤い絵の具で大きなバツが描かれていた。 「身に覚えは?」 「ないよ。ただ、一昨日あたりから毎朝下駄箱にこれだった」 「はよ言え。こう云うことは」 「明日はないかも、て、思ってたからねェ。でも二度あることは三度あるの四度目、て、なんだろ?」 「俺がどうにかするさ」  ふたりは木の椅子に腰掛けて並んで居た。  絵筆とパレットを脇によけ、睦月は武人の肩に寄りかかる。  あったかい。  ほどよく硬い広い肩。  武人の匂い。  睦月の匂い。  武人は睦月の肩に手を乗せ、ちょっと身を引いて睦月をよく見た。  衣替えしたばかりで、半袖のカッターシャツからのぞいた華奢な白い腕。  ちょっと困ったふうに笑っている表情や、細いあごに長い首。  淡い光に包まれているみたいな、次の瞬間消えてしまいそうに儚い存在。  守ってやんねーと。  武人のハグに、睦月はちゃんと応えた。  律儀なことに、四度目はちゃんと次の日だった。  睦月の絵が完成したんだった。  昼休みに美術教師のセカンドハウス、美術準備室に運ばれたそれをしげしげと眺め、美術教師は睦月を褒めたたえた。 「うん、まちがってないね、里仲くん。きみの才能は確かなものだよ。これなら胸をはって今度のコンペに出せる。きっと良い結果がでるさ」 「ありがとうございます。正直この作品は背伸びしてしまいまして、ちょっと俺らしくはないかもしれません。だから、その、今回は良くても、次、かな? は、多少評価がさがってもいいから、もっと俺らしいこぢんまりとしたものが描きたいです」 「はは、謙遜謙遜。きみらしいな。放課後にこれ、みんなにお披露目するんだろ?」 「はい。荒らしませんから、この部屋の入室許可、いいですよね?」 「もちろん」  美術教師は胸を張って、昼の職員会議の場へむかった。  里仲は良いと思う。  とても良いと思う。  ああ云う生徒は、本人のだけでなく教師の、学校の評価も高めてくれる。  立派な生徒は学校の宝だ。  その日の会議は盛り上がった。
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