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「ハイ、カーット!!」
パッと明かりがついた。
先程までとは打って変わって厳しい顔つきの「初枝」は、「亮平」を睨み付けて怒鳴った。
「ちょっと、何でそんなところで噛むのよ!!」
「……さーせん」
ふてくされたようなその謝り方に、彼女の眉は更に吊り上がった。
これは不味い展開だ。
私は慌ててナレーションブースからセットの街並みがあるスタジオブースへと駆け下りた。
「申し訳ありません、お客様!! ご安心ください、テイク2行きましょう。無料ですから」
「……息子は変更できるのよね?」
「もちろんでございます。あちらで、あちらでお選びください」
「今度はきちんと面会して決めさせて頂くわ」
「はい、もちろんでございます。そのように手配いたしますのでご安心ください」
「それと、ナレーションが少しくどいと思うのよ。抑えめにして頂ける?」
渾身のナレーションにケチをつけられ、少しだけ心に傷が入った。
これでも精一杯盛り上げつつ、お客様が次の行動に迷わないよう気を遣って語っているのだが……。
「はい、畏まりました。おーい」
もちろんそれは顔には出さず、女性スタッフを一人呼びつけた。
「初枝」にもう一度指名用の写真を見せて「息子」を選んで貰うよう指示を出す。その時、実物と違いが大きい写真は抜け、というのも忘れなかった。
「じゃあ、ご案内して」
「はい。こちらへどうぞ」
女性スタッフに連れられ、「初枝」は鼻息荒くスタジオブースから退場していった。
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