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後に残ったのは、ふてくされたままの「亮平」だ。
彼はここに入ってまだ日が浅いわけではない。
それだけに、妙にプライドの高いところがある。
「お前なぁ、あんな短いセリフで噛むんじゃないよ全く……」
「さーせん……でも」
「分かってるよ。向こうが変なアドリブをぶっこんできたからだろ。写真と違うなんてさ」
「何べんも変な確認取って来るから、調子狂っちゃったんスよ」
確かに。台本では、亮平だと確認するのは一度だけ。その後はお互いのこれまでを語りながら、徐々に近づいていき、最後は抱擁で締め括るはずだった。
だが、彼女の気持ちも分からないでは無かった。
私は一呼吸置いて、彼に尋ねた。
「指名用の写真撮ってから、お前何キロ太った?」
彼は答えない。下唇を噛んで、俯いてしまった。自分でもわかっているのだ。不味い状態だと。
推定ではあるが、二十キロ以上は増えているだろう。
顎下のたるみ具合など、完全に別人だ。
今日のお客様が彼を指名した時、一応実物と食い違いが出る場合もあるとは説明したのだが、ちょっと酷いよな。
「写真を変えるか痩せるか、どっちかにしろって言ったよな?」
「でも、今の写真じゃ誰も指名してくれない……」
「じゃあ、選択肢は一つだな」
「……今日からダイエットします」
「これが最後のチャンスだからな」
「……ハイ」
神妙な顔で一つ頷き、彼もまたスタジオブースを出て行った。
演技の力はないわけでは無いのだが、とにかく彼は体の方の管理があまり得意ではない。だが、そんな泣き言を受け入れてられ無いのが実状。
仕事と割り切って貰うしかないのだ。
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