2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
ここ、感動の再会体験スタジオ「SAIKAI」は、臨場感溢れる感動の再会を体験して頂く場所だ。感動し、涙を流すことは、心の健康を保つために大切な事だし、ストレスの軽減にもなる。
この忙しなく過ぎていく日々の中で、心に栄養を与える場所として、そこそこのお客様にご利用いただいている。
感動の再会を味わって貰う場なので、本来であれば容姿は問うべきではない。
しかし、実際男女どちらも整った顔立ちの方が人気が高いのはデータで出ているのだ。
一人になり、ようやく一つため息を吐く。
そこへ、先ほどお客様を案内して出て行った女性スタッフが戻ってきた。
顔つきからしてロクな話じゃない。
「店長、お客様が親子から年の離れた恋人に設定を変更して、最後にキスシーンを付け加えたいと……」
「うちはハグまでだってご説明して」
「ご説明差し上げたんですけれど……」
どうやら上手く行かなかったらしい。
目には怒りの色が揺らめいていた。
罵倒でもされたか、あるいは酷い嫌味を言われたのか。
「……ああ、すぐ行くよ」
「すみません……」
ぺこりと頭を下げるスタッフが、後で辞表を持ってこない事を祈るのみだ。
この商売をしているとしみじみと思う事がある。
多くの方がここを利用して、心の栄養を少しでも摂取してくれれば、それに越したことはない。
だが、我々の心には、一体誰が栄養をくれるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!