38人が本棚に入れています
本棚に追加
「お試し期間の三か月を過ごすために
ホリーがチェイスに連れられて
うちにやって来たあの日。
お前を寝かせつけた後、
チェイスとタエコと3人で
ハイタッチして抱き合ったよな」
「ゴールを決めたサッカー選手かよって
ノリだったな」
あ、もしかして……
「私がディナーのカレーライスを完食したから?」
「ああ、そうだ」
運転しながらリアムは目を細めて嬉しそうだ。
初めての日のあのディナーのインパクトは忘れない。
ウサギの形をしたライスが
真ん中にあるカレーで
隣の小さな器には
ウサギみたいにカットされたリンゴと
ハート型に切ったイチゴが盛りつけられていた。
施設ではそんな可愛く盛られた食事を食べたことはなかったから。
「私ね、施設ではあまりお腹は空かなかった。
食事の時間が苦痛で拷問の様な記憶しかない。
リアムが用意してくれたあのプレートのディナーが
キラキラして見えて。
心の底からおいしいって感じた
初めての食事だった。」
あの家での私の食事はいつも
何かワクワクするようなカワイイ工夫が施されていて
食べる事が楽しみになった。
私が食べきれる無理のない量だったから
食べ終えた満足感と達成感の両方があったんだと思う。
「そういえば私、リアムにもタエコにも
これを食べるまで許しません!とか言われたことがない」
「ああ、幼少時に苦手だった食べ物ってのは
成長すると頭で理解して食える様になるもんさ。
ニンジンは苦手だけどカロチンが含まれてるから
食べよう、とかそんな感じでな。
タエコに言われたんだよ。
この食材にはビタミンB1が含まれていて
摂取させなければどーのとか
考え過ぎるとハゲるわよ、大丈夫だからって」
「食育で悩んで円形のハゲは出来なかったか?
ロン毛だと、ごまかしが効くからいいよな」
リアムは肩に置かれたチェイスの手をパシッと払いのけ
「ハゲてねぇ!」
こういうやりとりって、小学生男子的で愛おしくて
笑ってしまった。
急に真面目な顔に戻ったリアムが
「メシを食わせてやりたい娘がいると
料理の腕も上がる。
ホリー、お前と暮らせて本当に幸せだと心底思う。
あの家に俺とチェイスだけで暮らしていたら
Our house just ain’t a home(家にくつろぎ、温かさはない)」
「ああ、こいつと2人で食卓を囲んで
ハッピーファミリータイムなんてキモすぎるだろ。
お前がいなきゃあの家に血は通ってなかったはずだ。
お前がいるから家の灯りに温かみがあって
メシも美味いんだ」
私たちはDNA上では赤の他人同士…
だけど関係に血が通っているから家族なんだ。
「そういえば、ホリーは家にやって来た時
いきなりたくさんの会話はしなかったが…
短い言葉は発したよな。そこにも驚いた」
リアムにそう言われてあの時、自分がどんな風に感じていたのか
今ならうまく話せる気がする。
最初のコメントを投稿しよう!