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ヘッドライトを点灯し始める時間帯。
薄暗い中を走行する車の列は黒い川みたいで不気味だ。
路肩でパトカーに止められた車の横を通り過ぎた。
警官が目に入って、マッケンジー巡査部長の事を思った。
「マッケンジー巡査部長、凛として強そうで
優しくて、ステキだったなぁ。
彼女みたいな警察官に憧れちゃう。
私、なれるかな」
運転しながら苦笑いしたリアムは
「チェイス、忌憚のない意見を述べてやってくれ」
え…私、変なこと言ったのかな?
フロントミラー越しにチェイスと目が合った。
「Okayホリー、よく聞けよ。
お前には出来ないとか無理だとか
頭ごなしに決めつける様なことは言いたくない。
けどな、お前なら何でもやれるとか
無責任に煽ることも俺はしたくない。
だから今から言うことは頭にいれておけ。
警官は目を背けたくなるような
凄惨な現場に出動する事もある
この国の女性警官はナメられない為に
男言葉で過激な啖呵も切って凶悪犯やチンピラと
渡り合えるようにする訓練も乗り越えるらしい。
ま、アメリカだからな当然か。
それでもなりたいなら…」
「私には無理…何も知らないのに
軽率な事言ってごめんなさい」
後ろからチェイスに頭を撫でられた。
「謝らなくていいさ、怒ったわけじゃない。
どうしてもなりたいのか、ちょっとなりたいのか
何気に口をついて出たのか、情熱ゲージにも
色々あるからな」
「マッケンジー巡査部長の優しさや笑顔の裏には
私には想像もつかない過酷な経験があるんだね」
「ああ、救えなかった命も少なくはないだろう。
全てを救えない現実に涙を呑んできたはずだ。
だからってメソメソ立ち止まっていられない。
痛みを胸に刻んで犯罪に立ち向いながら
走り続けてるんだろうな。
彼女は波動の深い女性だった。
保護した2歳の少女が元気に成長して
今日、訊ねて会いに来てくれたんだ。
報われるひとときで、感慨深かったに違いないさ
彼女のHUGは単なるその場限りの社交辞令的なHUGとは違って
温かかっただろ?」
ああ…うん、確かにそうだった。
私はあまりよく知らない人のHUGには
全身に見えないArmorの様なものを纏って
ボーダーを引いて自分の領域から遮断してしまう。
ギュッと身体が緊張するのがそれだ。
マッケンジー巡査部長にはその反応が起きなかった。
レベッカもそうだった。
ああ、そうだ。
レベッカの家で起きたことは
私の中でどうしても解せない疑問が残る。
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