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腕を組みながら、外の景色に
投げる様に視線を移したチェイスが口を開いた。
「リアムの親もアイザックの母親も
息子を愛しているというより
自分たちが思い描いた様に振舞い
成長する息子が好き…そういうことだろ。
子供ってのは健気だ。
親を喜ばせようと一生懸命応えようとする。
『あなたの為に言ってるのよ』を隠れ蓑に
意のままに操ろうとするのは毒親の常套手段だ」
そう言った後、チェイスは私を見ながら肩をすくめて
「な~んてエラソーに言ってるが……
毒親の要素なんてどの親も多かれ少なかれ
持ってるもんだ。
俺もな。
ま、そんな部分が出た時は
リアムやタエコが黙っちゃいない。
2人の存在は心強い」
「子ども一人一人の取説はないからな。
よくわからんまま、チェイスと手探りの育児だったよな。
そんな俺たちだったが、結果としてウチの娘は…」
間髪を入れずチェイスが
「Awesome! Amazing!」
「Perfect! Incredible!」
もういい…いいってば、やめようよ
すごく恥ずかしい。
なぜか私はラジオを付けるという
わけのわからない行動に出てしまった。
ちょうど流れて来たのはAEROSMITHの
"I Don't Wanna Miss A Thing"
リアムがフッと笑った。
「え?何なに?どうしたの?」
「チェイスに聞いてみな」
「リアムが笑ったのはどうして?」
私と目が合ったチェイスは視線をそらしながら
「昔は平気だったんだがな。
お前を引き取って以来
アルマゲドンを観るのはキツい」
「どうして?」
「親父が娘に別れを告げて小惑星で散る場面なんか
身につまされて、涙なしじゃ見られないからだ!
スティーブン=タイラーの歌声と歌詞がまた
気を抜くと泣きそうになる」
「他にも観るのが辛い映画を娘に教えてやれよチェイス」
「ジャン・レノとナタリーポートマンの”LEON"
ヒュー・ジャックマンの"LOGAN"
とにかく、あのテの映画は泣く。
勘弁してくれ」
ああ、そっか。
チェイスが見られなくなった映画って
父娘、またはそれに近い関係で
描かれたストーリーだからなんだ。
リアムは映画やドラマを見る時は
静かに鑑賞するタイプ。
チェイスはリアクションがアメリカ人そのものだ。
私も感情移入してしまう。
3人で何か観る時は……
静かなリアムの隣で私とチェイスの2人が騒がしい。
あと20~30分くらいでSan Joseだ。
外はすっかり夜の帳が下りてしまっている。
夜って日中とは打って変わって
見慣れた街並みも様相が違って不気味に感じる。
急に寒気を感じて鳥肌が立つ感覚に襲われた。
なんだろ、この嫌な感じ……
アンジーが私の部屋に現れた時にはこんな
身体がすくみ上るような怖さは感じなかった。
チェイスとリアムも感じているらしい。
車内がしんと静まり返った。
急に私たちの車も周囲を走行している車も
速度が落ちた。
スローモーションで動いている様に見える。
まるで幻術にかかったみたいに。
何本目かの街路灯にさしかかった時
気配を感じて、私たちは一斉に街路灯を見た。
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