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カチャッと私のシートベルトが外れる音を耳が捉えた次の瞬間
背後からグッと抱き込まれ助手席から身体が浮いた。
あっと言う間に後部座席へ引き込まれ
運転席の後ろへ少々乱暴にボンッと放り投げられた。
「悪ぃ、シートベルトしろ!」
言い終わらないうちにチェイスは助手席に移動。
どうしてチェイスは動くことが出来るのか
不思議に思いながら、言われた通り
震える手でなんとかシートベルトを装着した。
どうやら私も金縛りから解放された様だ。
チェイスはリアムの太ももに目をやると
ニヤッとしながら
「お前は足か…」
対してリアムは憮然とした声で
「腕は仕事と料理に支障が出る
痛いが…やるしかないだろ
お前…腕…ためらいなくザックリいったな」
足?腕?
彼らは一体なんの話をしているんだろう?
ピシッ…
突然、ガラスに亀裂が入り蛛の巣の様に広がる独特の音が。
慌ててフロント、両サイド、リアを見回したけど
私たちの車のガラスに亀裂はない。
街路灯の傍にはまだあの不気味な靄に包まれた
アメリカンビューティが立っている。
かろうじて人の様な輪郭を保っているけど陽炎のようだ。
周囲の車に乗っている人たちも
時間が止まった状態のまま。
私たちだけがその状況で
車の中で動くことが出来ている。
マトリックスの様……
ガラスが独特の硬質な音を立てながら砕ける音がした。
見えてはいない… だけどそれを感じる。
突然この辺一帯の重苦しい空気が一変した。
息がしやすい。
一斉に時間が動きだして、車が走行している。
もう何がなんだかわけがわからなくて恐ろしい。
助手席からチェイスが片手を伸ばして
ハンドルに手をかけた途端
リアムがすばやい身のこなしで
後部座席に移動してきたと同時に
チェイスが運転席に入れ替わっていた。
私はリアムの腕にしがみつきながら
後ろを振り向いて街路灯を見た。
「彼女がいない…消えた」
「前だ」
チェイスが舌打ちをした。
不気味な靄の塊が前方を走行している車の上を
軽快に移動した。
靄が触れた車は次々と制御不能に陥って
衝突しながら私たちの車に迫って来た。
「ホリー!どこかに摑まって足を踏ん張れ!
口を閉じろよ、舌を噛むぞ!」
早口でまくしたてたチェイスの指示に
トロい私が即座に反応出来るはずもなく……
思い切り身体が横に右に振られたと思ったら
次は左に… ウィンドウガラスにほっぺが押し付けられた。
リアムが私の身体を支えて
振られないよう押さえつけてくれたから良かったものの
そうじゃなきゃ、いつまでも左右に振られ続けて
きっと吐いていただろう。
まるでレーシングゲーム上級者みたいに
次々と行く手を阻んで迫りくる
制御不能に陥った車を華麗によけ続けるチェイス。
タイヤのキュルキュル音……
なんだっけ?
確か「スキール音」それがない。
スキール音が鳴る直前に車速をコントロールするテクニックを
持ってるんだ、すごい。
「マジかよ…おい…」
チェイスの視線の50メートルほど前方には
巨大なトレーラーが。
不気味な靄がトレーラーの後方に迫っていた。
あんなのが制御不能になって迫ってきたら回避出来ない!
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