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「いつも見えるわけじゃないんだけど
患者が病に侵されてる部分に黒い靄が見える事がある。
手術や治療で助かる程度の時もあれば
手遅れで手の施しようがない状態の時もあって
見分けはつかないんだ。
的外れな間違った治療を施そうとする医師に
そこじゃないって訴えたら…
メチャクチャ怒られて取り合ってもらえないしさ。
中には靄が見えるあたしを利用して、
病の原因を突き止める名医の名声を手に入れた奴もいたな。
まだあるんだ。
気味悪がられるだろうけど…」
「話してみなきゃ
俺たちがドン引きするかなんてわかんねぇだろ」
「あたし…助からない患者がわかる。
心肺停止で蘇生処置を受けてる患者が
肉体から出たり入ったりしてるうちに
自分の身体に弾かれて戻れなくなってるのが見えるんだ。
蘇生処置をやめて逝かせてくれって、肉体から
離れた患者の魂に訴えられることもある。
その通り伝えて親族や蘇生処置をしてる医師からは
とんでもない奴だ!ってなるわけ。
まだあるよ。
病室にこの世の者じゃない人…
たぶん患者と所縁のある人だと思うけど迎えに来て
待ってたりするのも見える。
あの人、もうすぐ亡くなるって
アスペルガーだから口に出して言っちゃうんだよね。
その通りになるから、看護師の間で
あたしが細工をして殺してるんじゃないかとか
陰で噂されて、病院の問題児になるわけよ。
何箇所か違う病院に勤務したけど、どこも
そのパターンでクビになる。
もうこの辺の病院じゃ要注意NPとして
どこも雇ってくれないよ。
アパートに帰っても一人だし
人の温もりが欲しくて…
抱きしめてもらいたいじゃん。
ストライクゾーンの男で抱いてくれんなら
遊びでもいい。
アスペルガーの私がいいなんて奴
いるわけないから」
アレックスはここまで
自嘲気味に早口で一気に話した。
私は場面緘黙だし
亡くなった人も視える。
アレックスは変じゃない!
ううん、他の人たちから見れば
変な人になっちゃうけど、私もその変人の仲間だよ!
そう言いたかったけど、初対面のアレックスに対して
いつもの調子で話すことが出来ない。
涙が止まらなくなって
自分の手をアレックスの手の上にそっと重ねた。
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