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インターホンの画面越しに映った人は…
全然わからない。
だって、インターホンのカメラに近づきすぎで
鼻の穴がアップで画面を占領してる。
ふんわりカールした髪が耳の後ろに見え隠れしたから
女性かな、たぶん。
隣でクックックッと
肩を揺らして笑っているレイチェル。
応対しようとしたけど
やっぱり知らない人相手だと
声が出ない。
いつもなら、居留守で済ませる。
けど、今日はレイチェルもいるし
こうなってしまった。
戸惑う私を見て
瞬時に真顔に戻ったレイチェルが
さっと私の前に出て応対した。
「どちら様でしょう?
ご用件は?」
少しオドオドした様子で
2~3歩下がった訪問者。
やっぱり女性だった。
高校生くらいの子供がいそうな感じ。
40代くらいだろうか。
肩に届くくらいの長さで
毛先だけカールが入ってる。
緊張した表情だけど、優しそうで
上品に見える。
学校の優しい先生っぽい雰囲気だ。
「あ、あの、こちらスペンサー氏のお宅でしょうか?」
「ええ、そうですけど。」
事務的に応対するレイチェル。
「私、オリビア・ヒスコートと申します。
母の代理で来ました。
母の名はメラニー・シュウォーレン。
スペンサー氏とホリーの養子縁組を承認する
最終判定を担ったのが母です。
母は末期がんで現在は
オハイオ州シンシナティのホスピスにいます。
本当は母がこちらに赴いて
話をしたいと望んでおりましたが…。
衰弱が激しくて長くは持たない状態です。
娘の私が母の言葉を伝えにお伺いしました。
アポもなしで突然ごめんなさい。
生きているうちに直接お伝えしたいと
願う母の思いを遂げたくて…
一方的な私の思いで来てしまって
本当にごめんなさい。
手紙も預かっているのですが
出来れば直接お話させていただけませんか?」
話を聞きながらレイチェルは
スマホを取り出して電話をかけた。
そして
「少しお待ちいただけますか?」
と言ってインターホンから離れ
何やら電話で話していたけど
すぐに切って玄関ドアを開けた。
「どうぞ、お入りください。」
オリビアと名乗る女性と目が合った。
「あなたがホリーね。
お会いできて良かったわ。」
やっぱり声が出なくて頷くだけしか出来ない。
手を差し伸べた彼女となんとか
握手をすることは出来た。
レイチェルが彼女をリビングに案内して
戻って来た。
「彼女にアイスティーを用意して
持って来てくれる?
私が彼女にあんたの事を説明しておくから。
チェイスに電話で確認したわ。
メラニー・シュウォーレンは記憶にあるって。
リアムがオリビアの事もすぐに調べた。
インターホンに映った彼女の顔を
スマホから送信したの。
大丈夫、メラニーの娘さんで間違いない。
身元確認は出来た。
メラニーもシンシナティのホスピスに
入居していることも確認済み。
だから家の中に通したの。」
瞬時にこれだけの連携が取れる
みんなはすごい。
デキる人たちばかり周りにいて
何も出来ずにボォーッとつっ立っている私って
社会に通用しないんだろうな。
キッチンでゲスト用のグラスに
アイスティーを注ぎ入れながら
伝えたい事って何だろうって
考えてもわからないのに気になって
グラスからアイスティーがドボドボ溢れ出してしまった。
ああ、私ってウェイトレスとか無理だろうな。
雇い主にもお客さんにも怒られて
固まって直立不動のまま泣き出すのが目に見えてる。
あ、そもそも笑顔でお客さんに応対とか
無理だからウェイトレスのシミュレーションなんて
しなくていいのか。
新たに入れ直したアイスティーをリビングに運んだ。
ドキドキしながらソファに腰を下ろした。
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