第三章 コーコ視点 とりあえず

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とりあえずその男性の対処はお父さんがする事に。その代わりお母さんが厨房に立つ。 酒場には夜限定で、従業員が数人私達と一緒に働いている。働いている従業員は、殆ど若者。 男性従業員は厨房、女性従業員は接客を担当。私は時と場合にあわせて、厨房と接客に回っている。 お母さんだってちゃんと厨房で料理はできるけど、その代わり接客が手薄になってしまう。 だから今日は歌えそうにない、お客さんには料理のみで妥協してもらう事に。 でも、酒場に異国の人間を泊めているからなのか、いつもよりお客が少ない気がする。なのに疲労は、いつも以上に溜まっている気がする。 開店前からだいぶバタバタしていたから、お母さんも私も仕事の合間にため息をついてしまう。 歌が披露できない代わりに、営業時間を伸ばした。でもこれはこれで、お客の皆がじっくりと料理を味わえたみたい。 そして、途中から看病を終えたお父さんも一緒に働き始める。お父さんの話によると、連れて来た黒髪の男性は、体温を取り戻したそう。 今はぐっすり熟睡しているらしく、いつ目覚めるのかは全く分からないが、とりあえず今はそっとしてあげるそうだ。 そしてお父さんは、自分の出遅れを挽回する様に、厨房をあちこち動き回っていた。 お母さんはいつも通りの接客にまわり、お父さんとお母さんは、「一曲だけでも歌う?」と提案してくれた。 私は2人の提案に賛成して、閉店間際に一曲だけだけど披露する。するとお客の皆が、笑顔で拍手喝采してくれた。 私は帰るお客の皆に、「今日は一曲のみでごめんなさい」と、一人ひとりに謝罪する。 すると皆は、「忙しい中ありがとう」と、お礼の言葉をかけてくれた。私はお客の皆に、深々と頭を下げる。 酒場はいつも夜遅くまでしているけど、雪国であるスガー大国では、夜遅くにお店は営業しない。 日を跨ぐと、冷気や吹雪が一気に押し寄せて、お店なんて開いていられないから。 ある程度片付けを終えて、従業員を帰らせた後、私達家族は後始末を完全に終えて、寝る支度に入る。 私達家族は、夕ご飯を食べない、そもそも酒場で出す料理の味見をするだけで、お腹が満たされてしまうから。 黒髪の男性は、両親2人の寝室に休ませている。私は二人に自分のベッドを譲って、私は酒場にあるソファで寝る事にした。 私の家の大半は酒場に占領されているから、お客様用の部屋なんて持ち合わせていない。 私のベッドで2人一緒に寝るのはキツいかもしれないけど、今日だけでも我慢してもらう事に。 両親2人が、「コーコちゃんがベッドで寝て!」と言ってくれたけど、別に私はソファの上でも熟睡できる。 というか、酒場開店の準備時間、よくそこで寝転んで休憩しているから。 夜の間は、暖炉に火を灯す事はできない。でも、酒場は暖炉がないと真夜中は結構寒い。だから私はタンスの中から、『グラピスの袋』を取り出した。 『グラピスの袋』とは、この雪国で利用されている、特殊な中身の入った袋の事。 様々な薬草が入っている袋の中に、水を一滴だけ入れると、ジワジワと袋が熱を帯びる。 スガー大国に住んでいる人なら、1人一袋は必ず持ち歩いている必需品。どのお店に行っても売っているから、失くしても大丈夫。 でも人によっては、袋を自分で裁縫して可愛らしくしている。私もその1人。 私のイニシャルである「K」を刺繍して、大きな雪の結晶の刺繍も入れた。時々友人やクラスメイトから、「私の袋も作って!」と言われ、そのお礼としてお金を貰った事も。 今持っているのは、学生時代に作った袋。あちこちほつれたりしたけど、縫い直せばまだ全然使える。 私はグラピスの袋に水を一滴入れて、暖かくなり始めた瞬間、服の中に入れる。 そうすれば、体の中が暖かくなる。周りが寒くても、布団に包まってしまえば全然大丈夫。 その代わり、お母さんに頼んで布団を3枚くらい重ねて使う。重いけど、寒いよりマシ。
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