序章 焦がれた別れの記憶

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自分は、無我夢中で走り続けた。足の裏が傷だらけになっても、喉の奥が痛みで避けそうになっても。 荒れ果てた地を駆け抜け、追手から逃れ、自分は大粒の涙を流しながら、ただひたすら前に進み続けた。 周りからは、人間なのかもよく分からない様な悲鳴、建物が崩壊する音が渦巻いている。 見慣れていた景色は、あっという間に崩れ落ち、さっきまでの平穏な日常が、一瞬にして遠ざかってしまった。 もはや『夢』がどちらなのか分からなくなる、この混沌とした景色と空間。 でも、さっきから鼻を刺す様な生々しい臭い、肌を焼く様な炎の熱さは、決して幻なんかでない。 普段は澄んだ山水が流れている川でさえ、真っ黒に淀んでいる。自分は河原を滑り落ちながら、辺りを見渡す。 川には普段、川魚を釣る為の木船がいくつも浮かんでいたのに、殆んどが壊されている。 自分は川を沿う様に走りながら、とにかく形を保っている船を見つける事だけ考えた。 川の水面には多くの魚の死骸が浮かんでいる。その空な目は、まるで自分を静かに責めている様な、嫌悪感を感じた。 今でも町の方からは、大きな爆発音と悲鳴が止まない。時折その音に混じって、住民の命乞いも聞こえる。 でもその命乞いの言葉でさえ、瞬時に悲鳴へと変わってしまう。自分は唇を噛み締めながら、無力な自分を責め立ている。 「仲間達は、今どうしているんだろうか・・・」 自分の頭に、仲間達の優しい笑顔が浮かんでくる。その笑顔を、もう一度だけでいいから、この目で見たかった。 でも分かっていた、疑問に思っていても、仲間達が全滅してしまった事なんて、もうとっくに悟ってる。 一人、また一人と、仲間は渦中に飲み込まれ、結局残ったのは、自分と『彼女』のみ。 もちろん自分達も懸命に戦った。なるべく多くの住民を助けようと、傷だらけになりながらも奮闘していた。 でも相手の狂気に満ちた勢いに、自分達は後退する事しかできず、助けた筈の住民も一人ずつ姿を消してしまう。 結局二人きりになり、そして今は、本当に一人ぼっちになってしまった。
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