第六章 ヤマト視点 行く先を示す

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「いいの?」 「慣れてるから全然大丈夫だよ  でも、貴方も貴方で『覚悟』しておいた方がいいよ。結構な距離だし、日に  ちもかかる」 「うん、なるべく君の足を引っ張らないようにするね」 「そんな、人を『軍人』みたいな呼び方しないでよ」 自分とコーコさんは、静かに笑った。 準備しなければいけない物。数日分の食料と、寒さを凌ぐ一式、ある程度のお金など。 食料は基本的に乾燥させた物が殆ど、乾燥させている食べ物は、長く保つし軽い。それに栄養もしっかり摂れる。 乾燥させた食料は多種多様、野菜・魚・肉、それぞれを多めに袋へ入れた。飲み水は、雪を溶かせば何も問題はない。 火を起こす為に使われる「キキャダ」という木材は欠かせない。荷物の中では一番重いから、自分がまとめて背負う事に。 コーコさんに、火打ち石を使った火の起こし方を教わった。手際の良いコーコさんは、あっという間に大きな炎を作り上げた。 雪国だから、作った火を保つ事が肝心らしい。でもその代わり、消化は雪を被せるだけで済むそう。 自分は何度も火起こしの練習をして、出発前にどうにかできるようになった。 その間コーコさんは、自分の為に温かい服装をつくってくれた。それに加えて、自分専用の『ぐらぴすの袋』という物も作ってもらった。 『ぐらぴすの袋』という物は、本当に不思議な性質だ。水をいって来たら酢だけで暖かくなるなんて、まるで『魔法』の様。 そしてコーコさんの両親は、雪の中でもしっかりと歩けるブーツを自分にプレゼントしてくれた。 コーコさんの両親の話では、「女物の方がしっくりした」らしい。そしてその発言を聞いたコーコさんが、「ヤマトさんの性別、改めて聞いていい?」と聞いた。 自分は正直に、「男ですよ」と言うと、コーコさんは何故か悔しそうな表情をしながら、固めた雪に顔を突っ込む。 そしてしきりに、「負けた・・・」と連呼している。娘の奇行を見て、両親は笑いを堪えるのに必死な様子。 そして、自分が漂流時に来ていた服は、コーコさんが直してくれた。破れた跡、焦げた跡を別の布で縫い合わせて。 以前この服がどんな形だったのかも覚えてはいないけど、コーコさんが直してくれた服は、以前よりも頑丈で暖かい作りになっている。 布が薄い箇所は、新たな布を重ねて縫い、元の服の色に合うように布を選別してくれた。 コーコさん自身も、「異国の服を直したのは初めてだから、楽しかった!」と言ってくれた。 そして自分の服の構造を、コーコさんはしっかりと紙に書き留めている様子だ。 「いつか、布地から貴方の服を完全に再現したい」と意気込む彼女の顔は、とても輝いて見えた。 そして出発前夜には、酒場で宴が行われた。子供からお年寄りまで、村の全員が酒場に集まる。 今まで酒場の手伝いに必死で、ちゃんと聞いた事のなかったコーコさんの歌声。を、改めて聞く事ができた。 透き通る様な可憐な歌声に、ついつい自分はうっとりとしてしまう。時が過ぎるのも、料理が冷めるのも忘れてしまうほど。
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