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第七章 ヤマト視点 打ち明ける能力
その出発前夜、自分はコーコさんに呼ばれて、酒場の裏に来た。コーコさんは長時間歌ったせいか、少し疲れている様子。
それでも「話があるから来てほしい」と言う・・・という事は、かなり重要な事柄に違いない。
宴が終わった村の中は異様なほど静かで、雲一つない星空が、村全体を包んでいた。
コーコさんの話では、これほど晴れている夜空は久しぶりらしく、2人分の紅茶を淹れて、倒れている木材に座り込む。
空気は寒いけど、もう自分の体は慣れてしまっていた。でも紅茶からは、濃いくらい湯気が立ち込めている。
コーコさんの両親からもらったブーツを慣らす為に、村の中を駆け回った甲斐があった。
その話をコーコさんにすると、「逆に壊さないでね」と苦笑いをされてしまう。
「あの宴に、助けてあげた女性も来てくれるなんて、嬉しい限りでした」
「・・・実はあの女性ね、元々体が弱い人だったの。
久しぶりに外へ出たらしいけど、貴方の勇気ある行動を見て、『自分もたく
ましく生きよう!』って思ったそうよ」
「『たくましい』だなんてそんな・・・
自分は咄嗟に動いただけで・・・」
「いやいや、例え咄嗟だったとしても、未知な存在に立ち向かえるなんて、そ
うそうできる事じゃないよ」
「・・・・・」
「どうしたの?」
コーコさんの言葉に、一瞬だけ自分の脳が揺れ動いた気がした。
コーコさんが自分を褒めてくれて、『嬉しい』という気持ちもあるけど、それよりも、もっと複雑な心境。
まるで、届きそうで届かない物を諦めた様な、そんなもどかしい感覚。でもその感情の正体は、さっぱり分からない。
でも、自分の脳が反応した言葉は、何となく分かる。『未知な存在』という部分だ。
記憶をほとんど失った自分にとって、あの時対峙した存在は、コーコさんの言う通り、確かに『未知な存在』
でも、自分の脳の何処かが、その言葉を真っ向から否定している。でも否定するだけで、あの存在が一体何なのか、それは分からないまま。
一瞬コーコさんに向かって、「違うよ」と言いかけたけど、これ以上話をややこしくしたくなかったから、あえて口を閉ざした。
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