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ビクッ!!!
「うぁあ!!!」
「きゃぁあ!!!」
突然船の中にあった塊が動いた、私は好奇心を抑えきれず、人をかき分けて船の中を見た。
おじさんや周りの人が止める声がしたけど、船の中を見た私は、思わず息を呑んだ。
さっきまでの不安が一気に吹き飛び、同時に新たな疑問が次々と湧き上がる。
だって船の中に居た人が、あまりにも『美しい』から。
人間として形を保っていた・・・それどころではない。黒い艶やかな髪に、綺麗な肌。
海の上を、長い間彷徨っていたとは到底思えないほどの美しい姿に、私はついその人の頬に触れた。
肌もちゃんと潤いを保っている様子で、目の周りがかなりベタベタしている。恐らく長い間泣き続けたんだろう。
それによく見ると、唇も小刻みに動いている。体からは僅かに温もりが残っていて、この人は完全に生きていた。
試しに私は、その人の肩を軽く揺さぶる、体はかすり傷がいくつもあるけど、身につけている服はだいぶボロボロだ。
切られた跡、焼かれた跡などが至る所にあるから、原型が一体どんな服だったのか、全く想像できない。でも、明らかにこの国では見ない服の作り。
それに、その人が手に握りしめている、『黒い棒の様な物』も、道具なのか武器なのかさっぱり分からない。
私がその『黒い棒』を掴もうとすると、突然私の手首を誰かが掴む。
それは、先程まで全く微動だにしなかった、船の中で眠っていた人だ。まるで『黒い棒』を咄嗟に守る様に、力強く私の手首を握る。
周りで見ていた人も声を上げて驚き、おじさんがが駆け寄ってくれたけど、どうすればいいのか分からない顔をしたまま、動けない様子。
私は、船の中で眠っていた人の顔をしっかり見た。その顔は、とても凛とした清々しい顔つきだった。
思わずため息を漏らしてしまった私に、その人は賢明に声を振り絞り、ポツポツと言葉を漏らす。
「・・・キ・・・キ・・・
・・・・・ちが・・・う・・・」
「・・・違う??」
私がそう言った瞬間、その人は力尽きて私の手を離す。でも、まだ息はしていた。疲れが溜まって、眠気に負けただけみたい。
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