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アインスくんの蹴りは尋常でないくらいに痛い。緒方さんの平手打ちの強さが1緒方さんならば、彼の渾身の一撃は25緒方さんだ。
落とした紙袋を震える手で抱え込み、額に浮かんだ冷や汗を空いた方の腕で拭う。
今に殺されると思う。本気で。
「こんな、人の多いところで蹴らなくても・・・せめて人の居ない、薄暗い場所にして欲しいです・・・」
「マダ懲りてナイんダ」
「違いますー・・・シャイなだけですー・・・」
顔をおそるおそる上げ、げんなりとしながら立ち上がった。足元がおぼつかない。手加減されていたにも関わらず凄まじい威力だ。
人々の視線は痛みを感じる前にスルーだ。忘れることにする。
「ありがとうございました」
「えぇぇ・・・!?? 蹴ってカンシャされんなら、ワタシこれからどうしたらイイんだヨ」
「違いますってー。ちょっと元気をもらえたから、気が楽になったって意味ですよぉ」
とんだ勘違いで落胆していたアインスくんは、ぼくの顔をうかがいながら「へー」っと簡潔に相づちを打った。
しかし、呆れや軽蔑のようなモノは見えず、むしろいつも通りの反応と言える。
「・・・二階のアイスクリーム屋さんの、抹茶ミルクソフトクリーム食べたい。オプションで練乳かけてイイ?」
ニヒヒと、誇らしげに笑って首を傾げる仕草は相変わらず、22歳という年齢にそぐわぬ子どもじみた雰囲気を持っている。
ご褒美が欲しいのだろう、それよりも撫でたい。
「君ってホントそういうの好きですねー。今日は特別に小豆も散らしていいですよ、北海道と備中と京都の三種類でしたっけ? どれがいいですか?」
「京都! 丹波大納言ー!」
一番高額な小豆を選ぶとは、ちゃっかりしている。オプションで大分お高くなったが、お礼にしては安上がりだ。
二階へと繋がるエスカレータに向かうぼく達の足取りは軽く、アインスくんなど真っ黒な編み上げブーツで軽快なリズムを刻んでいた。
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