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150㎝あるかないか。小柄だがおそらく成人しているであろう、明るい髪をボブにした女性。
《あ、ああ。そう・・・ほっときなよ》
「勿論。観察だけはしっかりしときますけど」
彼女は沢山の紙袋を椅子に置き、丸テーブルで一人、優雅にオムライスを食べていたようだが、スプーンは白い陶器の皿の上に置き去り。
両手が、正面の椅子二つに図々しく腰を下ろした、いかにも遊んでいそうな薄い髪色の男性二人に向けて、結構ですと様々なジェスチャーを繰り出していた。
《で、さっき何か言いかけなかった?》
「ん? ただ、緒方さんとぼくの言ってることが噛み合わないのは当然ですよーって」
《なんで?》
アインスがツカツカと、意を決したように凛々しく彼女の元へ行く姿をヘラヘラと笑いながら、タカさんの重々しい声に耳を傾ける。
「だって、君にはまだほんの一部しか話してませんもん」
タカさんは呆れたきった様子で、鼻を鳴らしながらゆっくりと深呼吸。
《で、話さない理由は?》
「気分的な問題です」
《あっそ・・・》
彼はとやかく言っても無駄だと分かっているのだ。やや不満そうではあったものの、追及はしてこない。
「ふふ。それにしても面白いですね、アインスくんが今満面の笑みで男性の肩を叩きましたよ」
飽きたので話は強制終了。代わって、言葉通り輝かしい笑みを浮かべたアインスくんが、意味不明な言語を早口で連ねていく様を実況放送。
「今日は何語の悪口でしょうね?」
《さぁ・・・オレがこないだちょっかい出した時はなんだっけ、多分イタリア語で、殺すぞ、って一言》
「ぼくが一昨日怒鳴られたのは、後で調べたらドイツ語でした。それも、凄まじく下品な」
《アイツ何ヶ国語習得する気なんだろね・・・?》
「最低でも6ヶ国語は話せるんじゃないですか? 数えたことないから知らないですけど。最近中国語に興味もってましたし、そろそろ勉強し始めてそうですね」
おそらく、彼は練習がてら中国語で話しかけているだろう。こちらまで届く声の雰囲気が、それとなく中国風に感じられる。
《・・・もう電子辞書じゃん・・・オレもアインス連れ歩きたいよ》
「アインスくんは電子辞書じゃないです。触って遊べるんで、3D〇ですね」
タカさんは、盛大に吹き出した。
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