15人が本棚に入れています
本棚に追加
「正気ですか? 祟られますよ?」
「あ、大丈夫です大丈夫です。部下の友人が祓ってくれますし」
━━霊能者の知人・・・だと・・・? やっべ、霊感皆無なのバレ・・・。
「はいはいお祖母ちゃん。旦那さんほったからしてこんな場に遊びに来ちゃダメですよー」
━━ちょ、うわっ、強引に座りやがった!? なんか厄介なの来たぞ!!!
気を取り直して発した渾身の脅しは、なんと、朗らかな笑みでかわされた。
どうでも良いが、不謹慎な私の方が祟られそうである。
左隣に気配。無論顔面は確認しないが、視界の隅にチラリと、何とも上品に盛られた料理の一部が映る。まずい。居座る気だ。
「あはは。嘘ですよね? 半透明のお祖母ちゃんなんて・・・」
随分と親しげに、しかし品良く笑いながら、男性はおどけた口調で言う。返す言葉を考えてむっと黙り込む私を差し置き、男性はペラペラと饒舌に会話を続ける。
「それ以前に何人か座ってましたし、君、さっきの人がいっちゃった後うんざりしながらため息ついてましたよねー。嫌なんですか? お喋りするの」
「はい。嫌です」
こうなったら小細工なしにズバズバと本音を言い、幻滅して帰ってもらおう。そういうことでためらいなく呟いたのだが、この男性、大した反応を見せない。
見ていないけれど。
「はは。でしょうねー。面倒くさいですよね、その気がない人間にしてみたら。分かります分かります」
それどころか、非常に嬉しそうな笑い声が聞こえてくるではないか。男性にしてはおしとやかで、妙に色気も感じる小さなそれ。
━━・・・何か、聞いたことあるような声・・・?
意見に同意し、共感した。つまりは、女性に対してどのような受け答えが適切かを少なからず知っているのだろう。
記憶にあるようなないような声はさておき、いつもの『悪いクセ』が発動し男性の真意を探ろうと意識を彼に集中させる。
「君が今、男の人と話したくないのと同じで、実はぼくも女の人と話すの疲れちゃったんですよねぇ。で、君に話しかけた理由を単刀直入に言うと・・・」
一字一句聞きもらさまいと耳を傾け、しかし気付かれぬようグラスを唇に寄せて興味無さげな雰囲気をかもし出す。
「ぼく、ゲイなんですよねー」
水が、気管支を、直撃。
最初のコメントを投稿しよう!