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レーゼルは必要な作業工程をまだ終えてはいなかった。
左腕を失い、右足も機能不全となった居たたまれないこの身体と、彼のアロイコアを切り離さなければ地上階にまで運搬することは不可能だ。厳密には、事務所に帰るまで地上階にいる【守衛】に遭遇しない可能性というのは限りなく低い。
もちろん必要なのはベアリクス・マードマンという存在の方であり、残念ながら肉体はセクターⅥBの片隅に放置される形となる。
この現場を見て、自分以外の誰かがこの地を調査した時に何かしらの戦闘の跡を考証するだろうが、できれば戦闘相手は恐ろしく強くて魅力的な男だったと伝記に残してほしいところだな、と考えた。
レーゼルは大腿部に収納している工作用の超音波カッターを抜きだすと、アロイコア後方から心臓部にかけて伸びる赤と青の電線にあてがった。マードマンの自我が次に目覚めた時には役所の尋問部屋に飛ばされていることを思うと少々心が痛むが、もとをたどれば法を最初に犯したのは彼である。レーゼルはもう一度電子タバコを咥え、言葉がすでに届かないならと胸の内を煙に乗せて吐露する。
″家族を守るために命を張る。立派な誉れだ。けどよ、待ち人を残して死んじまったら元も子もないだろうが″
マードマンの眼は何も答えてはくれない。
「最近思うんだけどよ」
「なに」
「1000年前の祖先はどうして、俺たちアロイコアをそれぞれ別々の個体として生まれるように遺したんだろうな。全部がまったく同じ存在なら、今頃こんな捻じれた世界になんかなってないだろうに」
「あら、知らなかったの」沈黙を待たずして、ヴァネッサの無機質な回答が続く。「彼らが私たちよりバカだったからよ」
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