EP.1

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「ツいてない――、ああ、ツいていないぜまったく。新調したばっかだっていうのに」  先刻の銃撃に被弾したようで、右足の膝から下は生えているというよりはぶら下がっている様子。意思に従っていないことを見てとるのは容易だ。何度も拳で右足を叩くが、火花が散るばかりで機能が復帰することはとうとうなかった。  引き違い戸下の壁面を背にもたれかかり、呼吸は不全そうな音を立てて荒々しかった。    一つ息を吐く。瞼を閉じ、マードマンは何かを決心するに数秒を要した後、右腕を対角線側に伸ばして左肩甲骨に刺さっている真鍮製の栓のべ4本を全て抜き出し、そのまま小指を強く引っ張った。  腕と肩の接地面のすぐ横の、チューイングガムくらい大きさの皮膚が畳替えしの要領で飛び出した。結合部因子とよばれるクランクで、男はそれを右に何度か回すと、乙の字の姿を露にしてクランクはポロリと腕から転がり落ちていく。  そして手首を掴むと、大根でも抜くかのように左腕を肩から外した。内部の神経コード類は純正の方が少ない粗悪品であるため正常に脱着が行われず、何本かの神経コードは銅線そのものが千切れてしまう。  彼にとっては、それも覚悟の上だった。痛みに表情を歪ませることがないのは、最初に栓を抜いた時点で痛覚のプログラムは一時的に停止するプラグインを導入していたからである。  身体を離れた左腕の内、親指を除いた4本の指を拳の内側に折り込み、グッドマークでもバッドマークでもある形を作る。こうすることで緊急時を想定した対応モードに入ったことを左腕は確認し、手首の赤色ランプは点滅を繰り返すようになった。  次にその突き出た親指の第二関節を外側に折り、内部に見える赤色のピンを勢いよく抜く。  ランプは明滅の速度を緩めるが、モードの状態を示す為ではすでにない。小さな信号音が一定の間隔をあけて鳴り始めた。
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