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「お前の言葉を借りるなら」
ひとつ。男はあいた左腕でポケットから電子タバコを取り出すと慣れた手つきで吸引し、天を仰いで煙を吐き出した。尚も視線と意識はマードマンに向けられており、隙を晒すような素振りは一切なかった。
その白い軌道が、漫画の吹き出しとしての役割を得たかのようにも見え、マードマンは文字を刻むためのテキストボックスを空想の中で広げた。もはや、今の彼には事態を好転させる案を逡巡するだけの気概はなく、皮肉も栄誉も込めて記念日となる今日をメモリーに刻むための入力モードとなっていた。
「俺がツいてたのか、お前がツいてなかったかのどっちかだろうな」
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