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「家族構成は?」
「妻と息子が一人、来年の7月にもう一人産む予定があったみたいね」
「てーなると家族が養えなくなったから金目の物を盗み出そうとしてここにきた訳だ」
「どうするつもりなのよ。その人を」
回答を待つまでもなく彼女の心は次の言葉を準備しているのは感ぜられたが、これは仕事の中の指示だ。言わずもがな、と簡略するわけにもいかなかった。
「アロイコアと記憶領域だけ回収して事務所に持ち帰る。まだ【役所】には報告をあげずに買い手を探す」
「あんたねぇ」案の定ね、とヴァネッサの心底から辟易するような息が、スピーカーを通過してこちらにまでかかりそうだった。「私たちの本文は遺文明の調査と遺品の発掘でしょ」
「回収するつもりだった遺品は先の戦闘で全部焦げカスだからな。手ぶらで帰るわけにもいかんだろ」
「どうせまた見境なくマシンガンぶっ放したんでしょ? だからいつまでも成果があがらないのよ」
「仕方がねえだろ。それに爆破したのはコイツだ」
レーゼルはこめかみに当てていた指を捻り、ダイヤルを回転させた。ヴァネッサとの通信が途絶え、セクターの入り口の外れで待機している回収車両のカーステレオに繋げた。
「アーロン、回収車の準備をしてくれ。23分後だ」
新聞紙の曲がる音を応答の合図としている。ことアーロンに関しては仕事に横着さを持ち合わせない点において信頼を置いていた。無骨に、淡々と割り当てられた作業に従事してくれる。精密に、無機質に。
「了解した」
潰れてくすんだ男性声だった。声のトーンだけでは機嫌がうかがえないのが、唯一、改善を検討してくれないかと提案したいところ。チャンネルをヴァネッサに戻した。
共用の回線を保持してはいるのだが、仕事柄、連絡は個別に行ったほうが情報伝達がスムーズに進むことはこの仕事の中で学んだ内の一つだった。
自分たちはあくまでビジネスパートナーであり、誰かが失敗を犯しても被害を過剰に被る意思はない。運命共同体などではなく、いきずりの、同じ目標へ向かうコミュニティにすぎない。
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