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少し冷静になろうと、今日の出来事を振り返る。
朝はいつものように起きて、庭掃除をして、そして──。そうだ! 孤児院の仲間と教会に行ったんだ。そこで、昔のドラゴンの話になって、ケンカになって──。あれ? そのあと、どうしたんだっけ?
その先が、どうしても思い出せない。
教会の祭壇にあった何かが光ったような気もするが、はっきりとは覚えていない。
きっと、その間に何かがあって、僕はこんな姿になってしまったんだろう。
(早く、元に戻らなきゃ!)
でも、どうやったら戻れるのか分からない。
(そうだ! あの教会に行けば何か分かるかもしれない!)
顔を上げ、教会を探そうとしてドキッとする。
目の前で炎に包まれている建物。それが正に教会だった。
唖然としていると、逃げていた人々が棒や石を持って僕を取り囲んでいた。
「バケモノめ!」
「町から出ていけ!」
(待ってよ! 僕はこの町の人間だよ!)
「ウウゥ! ガウガウオー!」
言葉にならない声が響く。
僕の声に一瞬驚いたが、徐々に取り囲む輪は小さくなっていく。
(僕はみんなと同じ人間だったのに……。なんでこんなことに……)
涙が溢れた。
こんな姿でも涙は出るんだと思いながら、僕は背中にある翼を動かした。
風が巻き起こり、ふわりと体が浮き上がる。
続けて動かしていくと、体がどんどん上昇していく。
取り囲んでいた人達が、腕を下ろし僕を見上げている。
燃え盛る教会と、その先の林の中に孤児院が見えてくると、僕は再び泣いた。
(みんな、さようなら……)
これからどうしたらいいかは分からない。元に戻れるかも分からない。
でも、目指すべき目的地はなんとなく分かった。
(昔いたというドラゴンの話。ドラゴンは、あの火の谷に住んでいた)
遥か彼方に見える、赤茶けた山々。そこが『火の谷』と呼ばれている場所だ。
(とりあえず、あそこに行ってみよう)
僕は風をとらえると、火の谷に向けて翼を動かした。
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