容喙(ようかい) /超・妄想コンテスト「バケモノ」優秀作品

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  ----+----+----+----+---- 「樋口さん」 「はい」 小休憩の時間にチーフに呼び止められた。休憩時間が減るのは迷惑なのだが、年下でも正社員なので一応役職は上だ。真美はしぶしぶ返事をした。 「お客様から、苦情が来てました。レジでお支払い中のお客様に『硬貨は三十枚までです!』って言ったんですか?」 「ああ。言ったけど、何?」 真美に向かって、チーフはため息をついた。 「お客様の様子を見てからお声掛けしましたか?お客様は硬貨を大量に入れて返却されてたんじゃなくて、清算方法を現金からカードに変更したから戻って来ただけなんだそうです。それなのに切り口上で決め付けられたって、憤慨なさってました」 「あ、そう」 それがなんだと言うのだ。レジでもたもたするお客様も神様だが、待たせているお客様も神様だ。さっさとどいて貰うために声をかけて何が悪い。それが多少間違っていただけではないか。 硬貨をたくさん持って来て返却口から出す客がいるから、親切心で教えてやったのに。 「で?私今から休憩なんだけど」 「…これからは、お客様をよく見て、お客様の身になって考えて…気をつけてください」 「はいはい、ご苦労さま」 チーフはまたため息をついた。わざとらしい。真美はパートだが年上だし、勤務年数もチーフより長いのだ。文句を言われる筋合いは無い。 細かいことにうるさい客のせいで、損をしてしまった。減ってしまった休憩分を、どうやって取り戻そうか。 真美は棚の一番後ろに隠しておいた値引きのデザートを持って、休憩室にさっさと向かった。
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