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「…『この主人公、この状況で笑ってるってバカじゃない?それ、パワハラだよ?普通ありえない、読んでて醒める』…っと」
カタカタと叩きつけるような勢いのキーボードの音が響く。
「えーと、こっちは…あー、ダメダメ」
小説投稿サイトのリストをクリックして出て来た更新分に顔をしかめながら、箸でポテトチップをつまんで口に入れる。箸は、キーボードをべたべたにしない知恵だ。
「『このキャラ、なんでこんなこと言われて喜んでんの?変すぎる。私だったらボロカスみたいになってどん底に落ち込むわ』」
樋口真実はリズム良くキーボードを叩いてエンターを押した。日々の日課である、ウォッチ対象にしている小説へのコメント送信だ。
自分では作品を書かないが、読書量には自信がある。素人の作品を良くしてあげるために感想を送るのは、読者の義務であり、親切だと思う。
「あー、最悪。こいつブロックしやがった」
リストの中の作者の一人に、ブロックされた。読者の意見を受け入れない心の狭い人間が、時々居るのだ。
作品をもっと良くするために、誤りや違和感を親切に指摘して、協力してあげているのに。
読者は作品を読むために、わざわざ時間をつかっているのだ。
「…恩知らずめ」
舌打ちして、リストからその作者を削除する。読者を大切にしない作者など、もっと早くこちらからブロックしてやれば良かった。
この作者は小説なんか書いているくせに、お客様は神様という言葉を知らないのか。
真美は手元に置いてあった炭酸飲料のペットボトルを取って、こぼれ防止のために挿してあるストローをずずっと大きな音を立ててすすった。
小説投稿サイトの次は、SNSだ。
真美の正義感が発揮される夜は、まだまだ終わりそうもない。
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