君に見せたい世界

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「私は間(あわい)の巫女だもの。私がここからいなくなったら結界も消え去り、人は皆殺されてしまうから決して出てはいけないと、父さまや母さまにきつく言われているの」  マナカはそれを聞くと拗ねたように唇をきゅっと絞り、まわりをじろじろと見渡した。  屋敷はどこも埃や穴だらけの酷い有様だ。もう随分長いこと、人の手が入っていないのだろう。 「もう人は誰も君のこと、憶えても知ってもいやしないよ。  それに、こんなところに君を独り閉じ込めて平気な奴らなんて、ロクなものじゃない。そんな奴らなんてどうでもいいじゃないか。僕は君のほうがずっと大事だ」  マナカはそう言って、何かを言いかけた少女の体から、しゃれこうべをそっと外してキスをした。少女の小ぶりな顔は、両手で持つとますますその輪郭の美しさがわかる。流れるような頭髪が、さらりと手にかかった。 「これなら小脇に抱えてどこにでも行ける。まずは君が好きな彼岸花を見に行こう。一面彼岸花が咲き誇る、とっておきの場所があるんだ。いい目玉があると、いいのだけれど」  少女のしゃれこうべを抱えたマナカは、屋敷を飛び出し風のように走り去っていった。以来、二人の姿を見た者はいない。  少女がいなくなると、残された体は砂のように崩れ去り、屋敷を覆っていた結界もまた跡形もなく消え去った。それを見たバケモノたちは喜び勇んであの世へ向かっていく。きっと今晩は、大きな大きな宴が開かれることだろう。
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