あまい恋をひとさじ

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沼津先輩の指は、魔法の指だ。 「うわ―。沼津先輩、凄い」 先輩の手の中で器用に動く、泡だて器、バターナイフ、仕上がってゆくチョコケーキ。 流れるような無駄のない動作からは、先輩が長年お菓子を作り続けてきたことがありありとわかった。 綺麗に膨らんだスポンジからは、今すぐ食べたいくらい、いい匂いがする。 あまいあまい香りの、調理室の午後。 「慣れたら丸山さんもこのくらいできるようになるよ」 「そうですかねぇ」 ちらっと私が見るのは、こげこげでかわいそうなくらいの…スポンジになる、はずだったもの。 おんなじ材料使ってるのに、なんでこうなっちゃうのかな。 ちょっとため息をつきたくなったけど、先輩は大丈夫だよって、と笑ってる。 俺も最初はそうだった、って、先輩はなんて優しいんだろう。
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