5人が本棚に入れています
本棚に追加
沼津先輩の指は、魔法の指だ。
「うわ―。沼津先輩、凄い」
先輩の手の中で器用に動く、泡だて器、バターナイフ、仕上がってゆくチョコケーキ。
流れるような無駄のない動作からは、先輩が長年お菓子を作り続けてきたことがありありとわかった。
綺麗に膨らんだスポンジからは、今すぐ食べたいくらい、いい匂いがする。
あまいあまい香りの、調理室の午後。
「慣れたら丸山さんもこのくらいできるようになるよ」
「そうですかねぇ」
ちらっと私が見るのは、こげこげでかわいそうなくらいの…スポンジになる、はずだったもの。
おんなじ材料使ってるのに、なんでこうなっちゃうのかな。
ちょっとため息をつきたくなったけど、先輩は大丈夫だよって、と笑ってる。
俺も最初はそうだった、って、先輩はなんて優しいんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!