叫び

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一人きりのトイレに、突如(とつじょ)、響いた 『誰か』の声―――――。 驚きの余り、一瞬、涙も引く。 トイレの灯りがか細く点滅し、 一瞬の闇から抜けた(のち)――――――、 目の前の光景に、私は『唖然』とする。 「鏡に映った私」が、(あご)でも外れたのかと思う程、口を目一杯に開いているのだ。 その姿は、まるで祖父のような………… 絵画の『叫び』そのものだった。 あんなにも口を開けた覚えなどないのに…… 「正しく姿を映す」はずの鏡が「知らない私」を映している。 そうして、不自然に開かれた「鏡の中の私」の口の中から………ギョロリと、こちらを見詰めるに気付き、戦慄する。 「私が会わせてあげる………」 再び、女の声が響いた後……… 鏡の中の私の口から、女が這い出て来る。 (あご)は完全に外れ、無理のある質量で女を吐き出す鏡の中の私は………… 目を宙に泳がせ、苦しそうに痙攣(けいれん)している。 鏡の中の光景を見て、本当に息苦しさを感じた私は、ある事に気付く。 何故だか「私」は、自分の拳を口の中に入れているのだ。 「鏡の中の私」の口から、女が這い出る動きに呼応するように………… 「現実の私」は、拳を喉の奥へ、奥へと進めて行く。
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