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氷中花
目の前を黒い影が横切った。ブレーキを力任せに踏み込むと、シートベルトが首筋に食い込んだ。鈴宮は硬直した指をはがしてハンドルを握り直し、バックミラーを覗き見る。
規則正しく並ぶオレンジ色の光に照らされた道。高速道路のトンネルで、いったい何が横切るというのだろう。
鼓動を落ち着かせようと、深く息を吸って、吐く。ひと月前、交通事故を目の当たりにしてから、運転中にときどき黒い影が見えるようになった。
あの晩はワイパーの水切りも追いつかないほど酷い雨だった。
大学の友人たちと内定祝いをしたあとの帰路。片側四車線ある国道の一番右の道路を走っていると、ルーフを打ち続ける雨音をもかき消す、甲高い音が鼓膜を貫いた。
事故だろうか。警戒したとたんにまたブレーキ音が鳴り、隣の車線を併走していたRVが何かに衝突した。自転車だ。
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