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鈴宮は車を停めて、運転席から飛び出した。
ひしゃげた鉄の塊。軟体動物のようにぐにゃりと曲がった細い足。水溜まりの中に転がった女は、弱々しく腕を伸ばしてきた。咄嗟にその手をとると、骨が軋むほど強く握り返された。刺すように冷たい雨の中、女はなぜかその顔に微笑を広げていた。
遠くで後続車のヘッドライトが光った。
網膜に焼き付いた光景を振り払おうと、鈴宮は震える足でアクセルを踏み込んだ。
天井から吊り下がった電光掲示板は、この先のチェーン規制を知らせている。今朝の天気予報は晴れのはずだったが、トンネルの向こう側は霞んでいた。
車道には雪がうっすらと膜を張っているだけだが、チェーン着脱場へ向かう側道は、積もり始めている。
横目で見ながら直進すると、電光掲示板の表示が変わった。高速はこの先スリップ事故による通行止めとのことだった。
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