氷中花

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 鈴宮は舌打ちした。ここで降りれば峠道だ。スタッドレスを着けてはきたが、雪道の運転は経験がない。かといって悠長に通行止めが解けるのを待つ気はなかった。学生最後の一人旅、貴重な時間を無駄にしたくない。  綿雪が視界を塞ぎ、ワイパーの動きが鈍くなっていく。高速を降りたばかりのときは渋滞していたはずが、気づけば前後に車はない。  坂は徐々に険しくなっていき、いつ立ち往生してもおかしくない状況だった。  きっともう少しだ。自らを鼓舞してアクセルを踏んだとき、道の脇から白い塊が突っ込んできた。 「なんだ?」  ひやりとして車を停める。山道に降り積もった真新しい雪に、ぽっかりと丸い穴が空いていた。鈴宮はダッシュボードに身を乗り出して、目を凝らした。  野ウサギだ。雪に溶け込みそうな、真っ白な冬毛の。  車を降りて穴に近づいた。人の気配に気づかないのか、ウサギは雪の中にじっとうずくまっている。
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