25人が本棚に入れています
本棚に追加
鈴宮は舌打ちした。ここで降りれば峠道だ。スタッドレスを着けてはきたが、雪道の運転は経験がない。かといって悠長に通行止めが解けるのを待つ気はなかった。学生最後の一人旅、貴重な時間を無駄にしたくない。
綿雪が視界を塞ぎ、ワイパーの動きが鈍くなっていく。高速を降りたばかりのときは渋滞していたはずが、気づけば前後に車はない。
坂は徐々に険しくなっていき、いつ立ち往生してもおかしくない状況だった。
きっともう少しだ。自らを鼓舞してアクセルを踏んだとき、道の脇から白い塊が突っ込んできた。
「なんだ?」
ひやりとして車を停める。山道に降り積もった真新しい雪に、ぽっかりと丸い穴が空いていた。鈴宮はダッシュボードに身を乗り出して、目を凝らした。
野ウサギだ。雪に溶け込みそうな、真っ白な冬毛の。
車を降りて穴に近づいた。人の気配に気づかないのか、ウサギは雪の中にじっとうずくまっている。
最初のコメントを投稿しよう!