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「ちょっとごめん」
どかそうとしてウサギを掬い上げると、左耳には抉られたような傷があった。もしかしたら、聴覚や平衡感覚が鈍って道路に出てきてしまったのかもしれない。
「こんなところにいたら危ないよ、もし車が通ったら一発だ」
山の斜面をよじ登り、道から離れたところで放してみた。するとウサギは柔らかな雪原に足跡をつけながら消えていった。
車に戻ると鈴宮はすぐにエンジンをかけた。上り坂はまだ続くが、大雪は治まる気配がない。
地図によると分岐があるはずだが見当たらず、延々続く坂に不安がこみ上げる。
そのとき突然エンジン音が弱まって、体ががたがたと上下に揺さぶられた。車はぴたりと停止した。
「嘘だろう、こんなところで」
キーを回すが始動しない。これまで不調を感じたことはなかったというのに、なぜ今なのだろう。
スマートフォンは圏外だ。再びエンジンを始動させても、弱々しくセルが鳴るばかりだった。
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