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鈴宮は車を降りた。
視界は白く霞み、道の先は見当もつかなかった。風が鳴って、雪がどさりと足元に落ちる。頭上を仰ぐと木々の合間から、テントのような三角形の小屋が見えた。
鈴宮は若い木の幹につかまりながら、斜面をよじ登った。
山道整備のための資材置き場といったところだろうか。小屋の前には点々と足跡がついていた。
救われたような気持ちで駆け寄って、扉を叩いた。
「すみません、誰かいませんか」
しんとしたまま返事はない。吹きつけてくる雪がちくちくと頬に刺さり、濡れた服から寒さが染み入ってくる。
諦めて折り返そうとしたときに、扉がぎいと音を立てた。
顔を覗かせたのは、鈴宮の胸ほどの背丈の少女だ。人が来るとは思っていなかったのか、切れ長の目を見開いている。血色のない白い肌。肩で切りそろえられた黒髪は、顔の左半分を覆っている。身体の線が細く、ウール地のワンピースが重そうだ。
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