優しい恋の忘れ方

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「ちょっと、たくろー?」  いつものように仕事が終わってから鈴木拓郎と二人でラーメンを食べた。拓郎は小中高と腐れ縁の友達。町内も一緒。母ちゃん達も仲良し。大学は別れちゃったけど、地元に戻ってきた拓郎の就職先がたまたま俺の就職先とかぶってまさかの同期になったのはもうかれこれ五年ほど前。  地味で休日は引きこもりマスターな俺と違い、拓郎は多趣味で頑張り屋で、明るくて邪気がなくて誰からも好かれる天真爛漫な男だ。いや、二十七歳になる男に「天真爛漫」はどうかと思うけど、その言葉が一番しっくりくると俺は思ってる。片思いをこじらせ続けた贔屓目かもしれないけど、拓郎は外見だって相当イケてる。もちろん中高とよくモテてた。大学だってモテモテだったと思う。  そんな拓郎が無防備にラーメン屋のカウンターで船を漕いでるのを見て「可愛いやつ」と内心思いながら、肘で脇腹を小突いた。 「たくろーって! まだジョッキ一杯なのに、もうおネム?」 「ん~……ねてない」 「ふふ。目ぇ閉じて言うなよ」  ラーメン屋のオヤジに金を払い店を出る。  今週はふたりとも忙しかった。明日はやっと休日。拓郎も緊張感が切れたんだろう。まだ十時だし、地下鉄で帰れないことはない。でも半分眠ってるような拓郎を歩かせるのも可哀想な気がしてタクシーへ手を上げた。
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