優しい恋の忘れ方

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「みーきちゃ~ん。ねてないよぉ~?」 「はいはい」  拓郎はふたりになると俺のことを「みきちゃん」と呼ぶ。名前が三ツ木亮だからだ。子供にミツギは呼びにくかったんだろう。小学生の頃からあだ名は「ミキ」が多かった。拓郎だけだ、「みきちゃん」呼びするのは。まぁそれも、密かに嬉しかったんだけど。ひねくれてる俺は毎回「女子みたいだからやめろ」って言ってた。でも拓郎にはきっと嫌がってないことがバレてたんだろうなって思う。だって拓郎は人の嫌がることは絶対しない、いいやつだから。  タクシーへ乗り込んだ途端、拓郎は俺の肩に頭をコテンと落として眠ってしまった。呼び掛けても、肩を揺すってもピクリとも動かない。疲れきってるのに腹いっぱいになったら……そりゃ寝ちゃうよな。  拓郎のアパートに到着。タクシー運転手に「戻るんで、五分ほど待っててください」とお願いして、フラフラな拓郎の身体を支えながらタクシーから降りる。  俺と拓郎の身長はさほど変わらない。昔は俺の方が背が高かったのに、いつの間にか追いつかれてしまった。拓郎はモデル体型で、シルエット的には俺の方がいかつい。体質もあるのだろう。拓郎より力仕事をすることも多いから、俺の意思に関係なく自然と筋肉もついてしまう。まぁ、だからこんなフラフラくにゃくにゃしてる拓郎を支えることができるんだけど。
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