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新しい記念日、できる? できない?
毎年訪れる鬼忙しいバレンタイン当日。
タイムライン∞カフェは相変わらず女性客でごった返しているけれど、実は今年は大改革の年なのだ。
ことの始まりは、新年明けて最初の営業日。
オーナーの室井さんが、いつものあのにっこり笑顔で宣言した。
「今年からバレンタインの制度を見直そうと思います」
バレンタインといえば、チョコもらったらお礼に記念撮影っていうあれがお決まりの流れだった。少しでも楽になるのならなんでもいいやとオレは思ったけれど、実際に切り出された改革内容はこう。
「バレンタインだからといって女性からいただくのはもう古いんですよ。うちは女性のためのカフェですからね。やはりこちらからお渡しするべきかなと思います。よって、今年からは従業員へのチョコ渡しは原則禁止。代わりにバレンタイン限定のチョコレートメニューを追加して、ご注文いただいたかたに限定オブジェ背景の記念撮影をプレゼントしましょう。ホワイトデーは、バレンタインの際の写真かレシートをお持ちいただけたら、ノベルティグッズを進呈するかたちにする予定です」
聞いたときはほおお……と感心したけれど、ロッカールームで星児さんが「あれ、完璧な執事喫茶に転身目指してんのかな」とつぶやいていたのをきいて微妙な気持ちになった。普段から執事執事しているのは事実だけれど、「おかえりなさいませお嬢様」はオレ的にはちょっとレベルが高すぎるわけで。
「限定オブジェとノベルティ、絶対もうすぐ製作指示くるから……サクも手伝ってね?」
チカにはあざとかわいく首を傾げながら頼まれた。
うん、そんな予感はしてた。
☆ ☆ ☆
かくしてバレンタインの大改革は決行された。
最初告知したときこそ「推しにチョコが渡せるのを楽しみにしていたのに!」系のお嬢様がたからクレームも入ってたみたいだけれど、日を追うにつれてそういう反発意見はなくなっていった。室井さんがどう鎮めたのかは謎。星児さんによれば、「チョコあげるより届けてもらえるほうが嬉しいんじゃね?」とのこと。
まあ冷静に考えると、もしかしたら室井さんは、オレたち従業員がいつも結構な心苦しさを感じてるってことに気づいてくれたのかもしれない。……遅すぎるけどさ。
そうしてリニューアルしたバレンタインは、蓋をあけてみれば大好評。忙しさとしてはいつもとほぼ変わらない盛況っぷりとなっている。ただ、やっぱりその間にチョコレートをもらうイベントが発生しないので、個人的にはとてつもなく心が楽チンになったのだった。
しかし身体は別ね。
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