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「サクって厨房も余裕でいけるよね。まあ室井さんが許さないだろうけど」
「ああ、前に言われた。料理得意ってきいたけど君はホール一択ね、って」
「さすが室井さん。潰しがはやい」
「潰しって」
話しながらもどこかほわんとしてしまって、オレの見ている前で平気でもぐもぐケーキ食べてるチカがかわいすぎてしかたないなって、そんなことばかり考えてる。オレの前で緊張して食べられなかったチカも嘘ついてたチカももういないけど、オレの前でリラックスして平気で食べてるチカのほうが、きっとオレを好きでいてくれてる。あぁ、頭のなかがとろけきってるな、オレ。
「チカ。こんなかっこで言うのもなんだけど、誕生日おめでと。なんならもう日付変わってるし、……だめだめじゃん」
今年の誕生日プレゼントは、チカがほしがってた工具をセットにして贈った。いっつも色気ないなって思うけど、ほしいものもらったほうが嬉しいじゃんって考えは共通してるから、なんの問題もないと思う。
「ありがとサク。どうして日付が変わっちゃったか、理由言ってあげようか?」
「……それはもっとだめ」
抱きしめていたクッションで顔を隠したら、とたんに取りあげられてしまった。オレが少しだけ成長したぶん、チカだってかつてのチカより幾分か進化してる。恥ずかしがって真っ赤になるチカなんて、もうレア中のレアだ。そこはちょっとつまんない。オレだけ進化できないでいる部分かも。
「サク。すっごいエロい顔してる」
「ぶっ」
なにを言い出すのだ、チカさんたら。
「まだエッチなことしてるみたいな顔してる」
「だっ……しかたないじゃん、余韻、抜けない……さすがに」
「そっか」
ふふ、と満足そうに笑ったチカの手が、オレの頭を優しくなでなでし始める。あったかくて、気持ちいい。またとろけ出しそう。これ以上とろけたら、オレがなくなっちゃうかも。
「サク、黒髪似合うよね。四月になったらまた金髪とかになっちゃうのかな」
「さあどうだろ。さすがにそろそろオレの将来とか気にしてほしいわ、オーナー」
「つるっつるになってもサクはサクだから、俺は好きだよ?」
「えー、それオレがいやだよ」
思わず想像してげんなりしても、チカは笑うだけだ。本当になんとも思ってないんだろう。嬉しいけど、やっぱり髪の毛は大事だと思うんだ。
「俺はどんなサクでも好きだよ」
「ん。オレも……」
渦中の髪の毛をいじいじしていた指先がふいに頬に降りてきた。それだけで身体がビクッと反応する。収まったはずの感覚がすぐに呼び覚まされて、チカにきかれちゃやばい類いの吐息が漏れだしてしまう。
「サク。かわいい」
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