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「じゃあなに? ヤらしてやんなかったとか?」
「ばかもの」
被せて斬ると、星児さんはおもしろそうに高笑いした。
最近の彼は本当に吹っ切れているというか、出会った頃とは別人のように毎日生き生きとしている感じがする。性格が変わったのかときかれればそういうわけでもないけれど、なんとなくいつも厳しいオーラを放っていた彼はもういない。まあだからといって、仕事において超頼れるパーフェクト人間なのは相変わらずなのだから、なんの問題もない。むしろ、昔より雰囲気が柔らかくなったせいか、あきらかにファンが増えてるし。
「……チカになんもきいてねえの?」
着替えながら尋ねてみると、相手はスマホをピコピコ打ちながら「なんも」と簡潔に答えをくれた。
「そっか。じゃあオレも言わね」
「なんだよそれ。つまんないじゃん」
「別に楽しい話じゃねえし」
「だからききたいんじゃん」
「性格わる」
言うと、また楽しそうに星児さんは笑った。その視線はずっとスマホの画面を向いている。きっと相手はラブラブの恋人さんに違いない。くそう。当てつけかよ、なんて被害妄想。
チカとは、あれからなんとなく気まずくなってしまった。
別に話をしないわけじゃないし、メールもしないわけじゃないけれど、なんとなくデートっぽいことはしてないし、バイトあがりにチカの部屋にいくのも遠慮してしまっている。
もうすぐ、チカの誕生日なのに。
本来なら、当日のシフトとデートの約束を確認しあって、いつも以上にテンションがあがってくる頃なのに。
「……星児さんはさあ」
鏡チェックをしながら、気がついたらぼんやりとつぶやいていた。
「なに?」
オレの声のトーンがおかしいことに気づいたのか、星児さんは画面からあっさり顔をあげてこちらを振り向く。
「自分が邪魔かもしれないって、思うこと、ない……?」
「……誰の?」
「その、相手の」
スマホを顎で示しながら返すと、星児さんは「は?」とつぶやいて目を丸くした。信じられないものでもみるような目でじろじろ見てくるので、堪えきれなくなってそっぽを向く。
「おまえなに考えてんの? チカがおまえを邪魔に思うとかあるわけないじゃん」
「違うって。そうじゃなくて。……うまく、言えないんだけど」
「オレはそういうの、もう考えるのやめることにしたけど。たぶんおまえの言いたいこととは違うんだろうな。なに? 仕事の邪魔になるとかそういうこと?」
「……まあ、そういう感じ」
「それはまた別問題なんじゃないの?」
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