17人が本棚に入れています
本棚に追加
「別問題? かな」
「チカだって仕事とプライベートの線引きくらいできるよ。そういうことじゃなくて?」
「うーん……どうなんだろ」
「なんだそれ。おまえ自身わかってないのかよ」
「……そうなるかな」
「ハッ、めんどくさいやつ」
言いながらも、まだお互い距離があった頃のように蔑むような目はもうしてこない。星児さんなりにオレの心のなかを暴こうとしてくれているのがわかって、それが嬉しかった。
「とにかく、別に喧嘩してるわけじゃないから。大丈夫」
たぶん、大丈夫。少しの不安を抱えながらも笑ってみせると、星児さんは疑うような視線を寄越しながら、それでもそれ以上踏み込もうとはしてこなかった。
もう自立しなさい、と師匠には年明け早々言い渡された。オレのチョコレート師匠、つまり万奈からだ。
「サクちゃんもう完璧だから。すっかり女子力あがったじゃん。なんならもう毎食でもごはんつくってあげられるレベルじゃん?」
初詣のときの話を打ち明けたわけじゃないのに絶妙なタイミングでそう言うから、オレは言葉に詰まってしまった。だってなんだか、状況は整ってるのにオレが意固地になってるだけって指摘されたみたいな気がして。まあ事実、そうなのかもしれないけれど。
結局、卒業を前にして忙しそうな万奈とヒロトには相談していない。チカ本人になんて伝えたらいいのかわからないのに、相談もなにもなかったって言い方のほうが正しいのかもしれない。可能ならばまたチョコレート製作の日にでもって思ったけれど、そういうわけで、オレの最後の望みは絶たれたってわけ。最初から話があるって言っていれば、万奈のことだから即答でイエスだったとは思うけど、そのときまでに頭がまとまっているとも限らない。
チカとは、約束していないままだ。
あのとき煮えきらなかったオレがなにを思っていたのか知らないくせして、チカはきっとオレの考えを尊重しようとしてくれている。でもきちんと話しかけたら自分がヒートアップしちゃうのわかってて、だからなにも言ってこないんだろう。それくらい、オレだってもう予想つく。悔しいかな、星児さんには負けるかもしれないけど。
だって「一緒に暮らそう」なんて言われるのも予想外だった。オレはむしろ、もう少しチカといる時間を減らしたほうがいいのかなって考えてたとこで。
……どうやったら、チカにうまく気持ちを伝えられるだろう。
それだけを必死に考えて、会う約束もしないままバレンタインと誕生日の準備はして。そうして、当日はすぐにやってきてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!